(C) 2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
『やがて海へと届く』中川龍太郎監督 大事なのはスタッフ・キャストと話せる時間を作れるかどうか【Director’s Interview Vol.198】
詩は小説よりも映画的
Q:非常にゆったりしたリズムの編集で贅沢な時間の使い方をしている印象がありましたが、一方で無駄なカットが一切ない研ぎ澄まされた感じもありました。
中川:そう言っていただけると嬉しいです。忙しないカット割りにはならないように意識していました。例えば、海が存在している時間は途方もなく長く、僕たちが生きている時間とは全くスケールが違う。また、大切な人を失った真奈は、ある意味引き伸ばされた時間を生きている。そういった時間感覚に合わせて編集しました。
ただし、映画の後半ではある種の“神”の視点のようなイメージでやや客観的になるので、編集のリズムを多少早めています。
Q:全体的なつなぎは、ほぼ脚本通りですか?
中川:いや、脚本からは相当変わっています。最初は脚本通りつなげたのですが、ものすごく退屈なものになってしまったので(笑)、順番など結構変えていきましたね。小川プロデューサーのアドバイスにも随分と助けられました。
『やがて海へと届く』(C) 2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
Q:中川監督は詩人としての経歴もお持ちですが、詩を書くリズムと映画編集をするリズムとでは似ている部分はありますか?
中川:詩は小説よりも映画的だと思います。映画は、物語を語るための道具というより、物語を道具にして“イメージ”を他者に伝えるものではないかなと、今の時点では思っています。詩というものも、そこにどういう内容の物語があるかではなく、言葉が想起させるもの自体に本質がある。そういう意味で、詩は映画と親和性が高いと思いますね。
Q:音楽も印象的で、使われている箇所が比較的多かった気がしました。そのあたりはどういった意図があったのでしょうか。
中川:この作品には見えない登場人物がいて、それは真奈とすみれを少し俯瞰して見ている“視点”なんです。死んだすみれという存在が俯瞰の視点となり、真奈のこともすみれのことも、すみれが真奈をどう見ていたかということも捉えている。つまり時間を超越した視点、ある種の神のような視点です。その視点の声みたいなものとして音楽をつけたかった。それで音楽のチームには、“遠くから聞こえてくる声”みたいなイメージで音楽を作ってもらいました。
Q:今回はアニメーションパートもありましたが、実際に取り入れてみていかがでしたか?
中川:アニメーションは久保雄太郎さんと米谷聡美さんにお願いしました。以前からお二人の才能には尊敬の念を抱いていて、今回ご一緒できて嬉しかったです。制作の順番としては、まず自分が書いた詩を元にそれぞれが感じたイメージを出してもらい、そこから一緒に話し合ってコンテの順番などを議論していきました。お二人と一年くらいの時間をかけて作っていく時間は至高のものでした。すごく丁寧に作業を進めることができました。アニメの演出は初めてなのでうまくできるか心配でしたが、二人のオープンさにも助けられて、楽しくできましたね。