(C) 2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
『やがて海へと届く』中川龍太郎監督 大事なのはスタッフ・キャストと話せる時間を作れるかどうか【Director’s Interview Vol.198】
20代で撮った作品のほとんどが国内外で絶賛された中川龍太郎監督。彼の最新作『やがて海へと届く』は、人気作家・彩瀬まるの同名小説の映画化だ。映画全体を包む独特のリズムで人物の内面へと迫っていく。その演出は、もはや若手監督とは思えないほどの落ち着きと説得力に満ち溢れている。また、映画のポイントとなる海の描写は圧倒的で、国内でこれほど雄大な画が撮れるのかと驚くほどの映像美。中川監督はいかにしてこの映画を生み出したのか? 話を伺った。
『やがて海へと届く』あらすじ
引っ込み思案で自分をうまく出せない真奈(岸井ゆきの)は、自由奔放でミステリアスなすみれ(浜辺美波)と出会い親友になる。しかし、すみれは一人旅に出たまま突然いなくなってしまう。あれから5年―真奈はすみれの不在をいまだ受け入れられず、彼女を亡き者として扱う周囲に反発を感じていた。ある日、真奈はすみれのかつての恋人・遠野から彼女が大切にしていたビデオカメラを受け取る。そこには、真奈とすみれが過ごした時間と、知らなかった彼女の秘密が残されていた…。真奈はもう一度すみれと向き合うために、彼女が最後に旅した地へと向かう。本当の親友を探す旅の先で、真奈が見つけたものとはーー。
Index
大切な存在がいなくなった後の時間
Q:たくさんある企画/原作の中から「やがて海へと届く」を選んだ理由を教えてください。
中川:主な理由は二つあります。一つは東北の震災が描かれているということ。震災当時、私は大学生で東京にいましたが、震災はどこか遠いことのように感じてしまっていました。多くの方が抱えていた喪失や痛みを、自分自身が実感することはなかなか出来なかった。ただ、そこから約10年が経ち多少の経験をしてきたことで、徐々に喪失や痛みを感じることが出来るようになってきていました。
もう一つは、大切な存在が唐突にいなくなった、その後の時間を振り返ることができると思えたことです。私は震災後すぐに、仲の良かった友人を自殺という形で亡くしました。それぞれは直接的なつながりのない事柄ですが、自分の中では大切な友人がいなくなった後の時間と震災後の社会を生きるということは重なる部分がありました。学生から大人になった今、その時間を振り返るとどうなるのか。この二つが今回の作品を作るきっかけでした。
『やがて海へと届く』(C) 2022 映画「やがて海へと届く」製作委員会
Q:今お話しされたご自身の経験も脚本に織り込まれたのでしょうか。
中川:そうですね。原作は素晴らしいのですが、自分にとって実感のある題材でなければ映画というかたちになかなかできません。原作の重要な核の部分と、自分が作り手として大事にしている部分とで、良い化学反応が起きるバランスを探りながら脚本を作っていきました。
Q:「作り手として大事にされてる部分」が「個人としての実感」であると。
中川:はい。友人と過ごした時間、そして失った時間、震災後を生きていく自分の時間などを大事にしました。