ありのままの少年たちを撮る
Q:言語の壁がある中、役者ではない人々への演出はいかがでしたか?
逢坂:クメール語と英語で使ってコミュニケーションを取っていましたが、僕はクメール語は話せないので、プロデューサーの女性が通訳に入ってくれました。彼女は監督経験もある方だったので、演出の意思疎通はやりやすかったです。脚本も内容をあまり固めず、かなり幅を持たせていたので、自然とドキュメンタリーぽい映像になったのかなと思います。
サーカスの少年たちは、普段からサーカスの舞台で演劇シーンも経験しているので、演技すること自体には慣れていました。ただ、カメラの前では演技経験がなく、舞台の演技と自然に演技をすることは違うため、撮影前に何度かワークショップを行いカメラ前での演技を練習しました。
Q:おっしゃるようにドキュメンタリータッチになっていますが、撮影するにあたりコンテなどは用意されたのでしょうか?
逢坂:コンテはありませんでした。脚本をクメール語に翻訳してもらって、子供たちに読んでもらいました。会話シーンは撮影前に練習しましたが、それ以外は普段の彼らの様子を撮っているような感じでした。
Q:撮影の規模はどんなものでしたか?
逢坂:撮影期間は1週間でした。スタッフはプロデューサーが助監督も兼ねてくれて、脚本も監修してくれました。照明兼音声係もNGO時代からいつも一緒にやっていたスタッフです。そのなかには17歳の高校生もいました。スタッフは計6人の小規模なチームでしたが、お互いに気心が知れていてコミュニケーションも取りやすかったですね。
『リトルサーカス』© 2022 A Little Circus
Q:ドキュメンタリーを観ているかのような感覚がある一方で、美しい映像も印象的でした。カメラマンとはどのように話されたのでしょうか?
逢坂:舞台上での演技に慣れているとはいえ、少年たちはカメラが近づくとやはり緊張するんです。主人公の子はそれほどでもないのですが、他の子たちは緊張しているのがカメラ越しに伝わってきました。だからなるべくカメラの存在を消したくて、遠くから望遠で撮ることが多かったです。それで少年たちの自然な姿を撮ろうとしました。またコロナ対策で入国後は隔離されるので、カメラマンの松尾真哉さんが合流できたのは撮影の二日前。事前に打ち合わせする時間は限られていたので、結構その場で話しながらやっていました。
Q:カメラはコンパクトなブラックマジックで、レンズもズームレンズ1本で撮影したと聞きました。
逢坂:そうなんです。そこは松尾さんのテーマでした。撮影助手はおらず機材も最小限でしたが「どれだけ綺麗に撮れるか見せてやりましょうよ」と意気込んでくれました。結果的にそのスタイルは、今回のストーリーには合っていたように思います。
Q:大きな一輪車で走ったり、夕日をバックに練習するショットは非常に美しかったです。
逢坂:あのシーンは空港の滑走路で撮影しました。今は使われていない空港で、市民の憩いの場になっていて、多くの人がランニングしたりバーベーキューしたりしています。僕も行ったことがあって、夕日の美しさも印象に残っていたので、最初からあの場所で撮る想定で脚本にも書いていました。