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「ゴッサムの犯罪紳士ペンギンの顔」【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.67】

「ゴッサムの犯罪紳士ペンギンの顔」【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.67】

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大きな影響を残した異形としてのペンギン





 ぼくがここまでペンギンに思い入れを持っているのは、もちろん『バットマン リターンズ』におけるダニー・デヴィート扮する強烈なペンギンのためである。このバージョンについては本連載でも度々書いているが、その肖像は何度でも絵に描きたくなる。名家コブルポットの長男として誕生するが、そのおぞましい姿から両親に下水道に捨てられ、なぜかそこから閉鎖された動物園にたどり着き、取り残されていたペンギンたちに育てられる。愛を知らない怪物として成長した彼は、やがて地上での生活を渇望し、バットマンと対峙することになる。


 監督ティム・バートンの作風や趣味との親和性が炸裂し、このバージョンのペンギンはほとんどバートンによって創造された全く新しいキャラクターのようなところが特徴である。愛されずに育ったフリーク、ゴシック的色彩、サーカス、クリスマス……どこを切り取ってもバートンのトレードマークなため、この前作にあたる『バットマン』に比べると趣味的作品として受け止められがちだが、しかしこれもまたバットマン映画史において無視できないポイントのひとつだろうと思う。このダークさもまたバットマンの持ついち側面なのだ。


 極限までペンギンのシルエットに近づくようにデザインされたペンギンの姿は、夢に出てきそうなほど強烈な印象を残すが、この後に登場するペンギンたちは、アニメーション作品も含めて、ダニー・デヴィートの演じた異形の姿を踏襲するのか、それともそこから(逃げ出すように)離れた現実的な姿に舵を取るのか、その選択を迫られることになる。いずれにせよ原作イメージと独特のアレンジが合わさって見事な化学反応を生んだ『リターンズ』版のペンギンは文句のつけようがない。意味もなく口から吐き出す青緑色の液体もいい。


 『リターンズ』の物語の主軸として、ペンギンによるゴッサム市長選への出馬というのがある。悪徳実業家マックス・シュレックによる差し金でその気になったペンギンが、市民からの人気を集めて現市長を引きずり降ろそうとする。ペンギンの市長選出馬は、前述の『怪鳥人間』のいちエピソードにもある話だが、怪物的な悪党が選挙に出て、その物珍しさから人気を集めるという一種のブラックユーモアが、今になって見返すと鋭いなと思ったりもする。


 市長選に出るにあたってペンギンは正装するが、真っ黒のシルクハット、真っ黒の手袋、真っ黒のコートによってペンギン的シルエットは完成する。ついでにその風貌はどこかドイツ表現主義映画『カリガリ博士』に登場するカリガリ博士にそっくりで、バートン作品ではこの映画の影響がよく指摘されるのだが、バートン本人がそれを観たのは結構あとのことだと語ってもいる。





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