特殊メイクによる現実的なペンギンの姿
ドラマシリーズ『GOTHAM/ゴッサム』でロビン・ロード・テイラーが演じたペンギンは、伝説的な『リターンズ』以来の実写版として、ペンギン像を新時代へと引っ張っていった。特殊メイクの類は一切なし、青白い顔と鋭利な印象の顔つきと、トレードマークの傘だけでペンギンらしさが体現された。ちなみにその父親役を演じたのはピーウィー・ハーマンでお馴染みのポール・ルーベンスだが、彼は『リターンズ』でも父親を演じ、生まれたばかりのペンギンを下水道に捨てていた。
『GOTHAM/ゴッサム』でのペンギンはマフィアとの繋がりが密接に描かれ、その暗黒街でのキャリアもマフィア幹部の傘持ちから始まる。そして、物語上直接的な繋がりはないものの、まるでこのドラマシリーズのペンギンがそのまま年を取ったかのような雰囲気で描かれるのが、『THE BATMAN-ザ・バットマン-』におけるペンギンだ。
最新のペンギンは歴代で最もどっしりした体型で、顔もずんぐりと大きくて首が見えない。頭髪は薄く、顔面には大きな古傷が走り、線が太く、先端が潰れたかのような鉤鼻はまさに鳥のくちばし。しかし、その姿はどこまでも現実的でどこかにはきっといそうな雰囲気。意図的にペンギンのシルエットに近づけたようなところは一切ない。そんな、ダニー・デヴィートが施された特殊メイクとは違うベクトルのものによって、別人に変貌したのがコリン・ファレルである。言われなければわからないほどの変わり果てた姿で、これでは誰でもなれるのではないかと感じずにいられないが、映画を観ればファレルの演技がこの外見に命を吹き込んでいることがわかる。
このペンギンもまたマフィアの一員として描かれ、映画には彼の経営するクラブ「アイスバーグ・ラウンジ」が登場し、バットマンが情報を求めてそこを訪れるという、原作コミックではお馴染みの光景がとうとうスクリーンに描かれる。敵対する悪党でありながら、ペンギンはときにバットマンにとって重要な情報源となり、ふたりの関係は微妙なバランスの上に成り立ってもいるのだ。
言ってしまえば地味な造形である。シルクハットもなければ機関銃の仕込まれた傘もないし、本人はペンギンという呼び名を嫌ってさえいる。しかし、大掛かりな特殊メイクを使ってまで表現されたその「おじさん」としての姿に不思議と惹かれるものがあり、当たり前のことながら特殊メイクは空想上のヴィジュアルを表現するだけのものではないことを改めて思い知らされる。それは映像上の理想的な現実を描くために使われるツールであり、この新しいペンギンはそんな技術が集約されているようで、ペンギン好きとして感動を覚えた。この「おじさん」はどこまでもリアルなのに、この世には実在しない顔なのだというのが奇妙な感じでもあった。
本編中ではまだ犯罪紳士としての地位を確立していないペンギンことオズだったが、彼を主人公としたドラマシリーズの企画が進んでいるというのだから注目せずにはいられない。原題は『The Penguin』。バージェス・メレディスが演じてから半世紀以上経ち、ようやくペンギンはタイトルロールとなったのだ。同じキャラクターを元にしながらも、映像化のたびに異なる姿を見せてくれるのは、ペンギンに限らずバットマンの悪役たち皆に言えることで、これから先もどんな俳優によるどんなペンギンの姿が見られるのかと想像したくなるが、しばらくはコリン・ファレルのペンギンを観ることになりそうだ。今からとても楽しみである。
イラスト・文:川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。