©Story of Film Ltd 2020
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』マーク・カズンズ監督 子供の時と同じ気持ちで映画を観ること【Director’s Interview Vol.212】
子供の時と同じ気持ちで観る
Q:この作品のように、映画を体系的にいろんな視点から分析し、それを共有してくれるのは、とても興味深くて面白いです。ただ不思議なことに、実際に映画を観ている時はその作品世界に没入しているため、なかなか分析するまでは頭が回りません。監督は普段どのように映画を観ているのでしょうか?
カズンズ:私が映画を観るときに心がけているのは、自分が子供だった時と同じ気持ちで観ること。つまり、感情を開いてすべて受け入れる状態にして、自分の私的な思考は一旦横に置いて観るようにしています。
ただ、そうやって自分を自由な状態にして観ているときでも、その映画と別のことを頭の中で紐づけてしまっていることもたまにあります。しかしそれは知的作業というよりも、あくまでも突発的な「思いつき」だと思います。
Q:私も「このシーンはあの映画のシーンに影響されているのでは?」と、映画を観ていて勝手に感じてしまうこともあります。そういうときは何かを発見したような喜びを感じます。
カズンズ:そうですね。私もそういったことは頻繁に起きます。自分の頭の中を自由に解放してあげて無意識下に働きかけることで、思いもよらないところに発想が飛んでいったりするんです。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020
Q:こうやってたくさんの映画を観て分析してきた経験は、ご自身のドキュメンタリー映画製作にどのような影響を与えていますか?
カズンズ:作品の分析は巡礼の旅のような感じで、まるで自分の根源的な原点に戻るようなワクワクする体験でした。自分で映画を作るときは、他の人や映画を見て学び、イノベーションを起こすような新しい手法を実践することを心がけています。
Q:作品を観て影響を受けることは、いい意味で体の中に蓄積されることですが、一方で模倣になってしまう懸念もあります。
カズンズ:そうですね。もちろん焼き直しのような作品は作りたくない。ですが、もし別の作品と似通った部分があったとしても、結局そこは自分の感情や情熱なんです。自分の育ちや背景は、それまで生きてきた人生というフィルターを通して、また別のものになってゆく。様々な色が上塗りされるようなものですね。
Q:それは自分自身というものが作品に焼き付けられるということでしょうか。
カズンズ:まさにそうです。私はカメラをどこへでも持ち出して、映像を撮らない日はありません。カメラとパソコンの中には撮り溜めた映像がたくさんあるんです。それは全て私のストーリーであって、私の感情の焼き付けであり、それで作品を紡いでいくのです。