©Story of Film Ltd 2020
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』マーク・カズンズ監督 子供の時と同じ気持ちで映画を観ること【Director’s Interview Vol.212】
世界に通用する日本映画
Q:日本映画についてお聞かせください。この映画の中でも『万引き家族』(18)と『麦秋』(51)が出てきますが、最近の日本映画についてはどういう印象をお持ちですか?
カズンズ:アニメに関しては、日本はずっといい作品を作り続けていますよね。実写映画では、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』(21)が素晴らしく、とてつもない才能を持った人が現れたと思います。イングマール・ベルイマン監督の再来のようにすら感じました。
日本映画にいい作品はありますが、かつてほどではないかもしれませんね。小津や黒澤の時代はもちろん、相米慎二監督や90年代初頭の映画など、日本映画の歴史の中でいい時代はあったと思いますが、この11年に関しては最高の時代ではなかったのかもしれません。そんな中、青山真治監督が亡くなってしまいましたが、彼も映画に対してとても情熱を持っていた方だったと思います。
若い人が映画文化に接すること、映画を愛するようになることは、映画教育に負うところも大きいと思います。今はそれが必要ではないでしょうか。映画に国境が無いように、時間軸においても映画は区別されるものではありません。ですから、小津監督も田中絹代さんも昨日の出来事のようなものであり、決して古いものではありません。今も生き続けているんです。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』©Story of Film Ltd 2020
Q:今の日本映画はとにかく予算がありません。それはマーケットの問題が大きく、今まで国内だけで成立していたものが、もはや成立しなくなっている。海外に目を向けることを余儀なくされている状況です。そうやって日本映画がこれから海外に出て行こうとしたときに、世界の皆さんは歓迎してくれるでしょうか。
カズンズ:黒澤明監督の『羅生門』(50)を観ると明らかなように、ヴェネツィアであれだけ受け入れられたということは。十分世界に通用する作品であり、それを遮るものは何もありません。日本映画は十分世界に通用すると思いますよ。
Q:これまでたくさんの映画を観てこられたと思いますが、最も影響を受けた監督や作品を教えてください。
カズンズ:劇映画は今村昌平監督の『にっぽん昆虫記』(63)ですね。ドキュメンタリーでは、原一男監督の『ゆきゆきて、神軍』(87)を観て、私の人生がガツンと変わりました。同じくドキュメンタリーでは、土本典昭監督作『不知火海』(75)がとても素晴らしい作品でしたね。
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監督・ナレーション:マーク・カズンズ
1965年5月3日、北アイルランドのベルファスト生まれ。エディンバラを拠点に活動するドキュメンタリー監督/作家。TV向けのドキュメンタリー監督からキャリアをスタートさせ、これまで監督を務めた作品は約20作品に及ぶ。初めて監督した長編ドキュメンタリー映画は、イラクのクルド人自治区に暮らす子供たちを撮った『The First Movie(原題)』(未・09)。2作目の長編ドキュメンタリー映画『What is this Film called Love?(原題)』(12)は、世界20カ国で上映され、ロンドンの現代美術館でも上映された。また、英国映画テレビ芸術アカデミー・スコットランド(BAFTA Scotland)の最優秀監督賞にノミネートされた。2015年に監督した『I am Belfast(原題)』は、自身の故郷であるベルファストを取り上げ、撮影監督は世界的に知られるクリストファー・ドイルが務めている。2004年に発表した著書「The Story of Film」が、世界各国の言語に翻訳されタイムズ紙にて“映画について書かれた本の中で最も素晴らしい本”と評された。同書をきっかけに、映画が誕生した約120年前から遡り、約1,000作品を取り上げた全15話からなるTVシリーズ「ストーリー・オブ・フィルム」(11年/JAIHOにて配信中)を監督。同作は、各国の映画祭や国で上映され、映画に関する教育の場にも影響を与えた。さらに、マイケル・ムーア監督が主催するトラバースシティ映画祭にて、スタンリー・キューブリック賞も受賞した。映画『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』は、小説・TVシリーズ「ストーリー・オブ・フィルム」の最新作である。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』
新宿シネマカリテ他公開中、全国順次ロードショー!
配給:JAIHO
©Story of Film Ltd 2020