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『PLAN 75』早川千絵監督 非人道的なシステムに悪意なく無自覚に加担する国民性【Director’s Interview Vol.216】

『PLAN 75』早川千絵監督 非人道的なシステムに悪意なく無自覚に加担する国民性【Director’s Interview Vol.216】

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ミチ役は倍賞千恵子さんしか考えられなかった



Q:倍賞千恵子さんなくしては成立しなかったのではと思うくらいに、倍賞さんが圧倒的に素晴らしかったです。キャスティングの経緯やご本人と話されたことがあれば聞かせてください。

 

早川:この映画の主人公ミチは、皆の同情を引くような"可哀想な人"に見せたくなかった。どこか凛としていて人間的な魅力があり、芯の強さを持っている人。そういう方に演じてもらいたいと思った時、真っ先に浮かんだのが倍賞千恵子さんでした。


また、ミチは仕事をしている設定なので、それをリアルに演じられる方でなければなりません。倍賞さんが過去に出演された『駅 STATION』(81)、『故郷』(72)、『家族』(70)などといった映画で、仕事をする様が板についていて、その姿がとても美しかったのが強く印象に残っていました。もう倍賞さんしかいないなと。ご本人は脚本を読んで気に入ってくださいましたが、出演に関しては監督と会ってから決めたいとのことでした。それで実際にお会いして、どういう作品にしたいかを私からお話させていただき、引き受けていただくことになりました。


倍賞さんが出演してくださることで、観客の間口がより広がると思いますし、この役を引き受けてくださったことに本当に感謝しています。


Q:現場での倍賞さんはいかがでしたか? 

 

早川:本読みの際、倍賞さんから「この人はどこで生まれたの?」と聞かれたので、ミチの生い立ちを説明しました。役について細かく話したのはそれぐらいで、あとは脚本をご自身で理解されたままに演じてもらいました。撮るたびにため息が出るほど完璧な演技で、「役者ってすごいな…」と毎回思っていました。



『PLAN 75』©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee


Q:磯村勇斗さん、河合優実さんも、抑制された演技で圧巻でした。予告にも出てきますが、カメラに視線を向ける河合さんの表情は忘れられません。 


早川:二人には、それぞれの役がどういう人物かを説明しただけですが、二人とも本当に勘が良かった。磯村さんの役は特にセリフが少ないですし、ほとんど黙って見ているような、表情とたたずまいが大切な芝居が多かったのですが、細かなニュアンスまで演じ分けられる器用さがありました。


河合さんの視線のシーンは、脚本に書かれていたものですが、シーンとして実際にうまく成立するかどうか不安もありました。大事なシーンだったのでテイクを重ねましたが、結局ファーストテイクが一番良くて、実際に使ったのもそのテイクです。河合さんがバッチリ決めてくださって、とても強い印象を残すシーンになったと思います。


Q:ステファニー・アリアンさん演じるマリアの視点が唯一まともな気がしましたが、彼女の役をフィリピンからの出稼ぎ労働者に設定した理由を教えてください。

 

早川:まず、日本社会を外から見た視点を入れたかった。そしてフィリピンは、日本とは対照的な点が多くあるんです。フィリピンは家族やコミュニティの絆やつながりがとても強くて、高齢者を施設に預けることは稀だそうなんです。家族みんなで世話をするのが当たり前という考え方があり、国民のおよそ9割がキリスト教系の信仰があるということもあって、助け合いの精神が根付いている。


私の友人にもフィリピンの方がいますが、そのコミュニティに行くと、「いらっしゃい」と初めての人でも歓迎してくれる温かさがある。皆明るくて温かく、結束も固い。他人に無関心で、人に頼ることを躊躇しがちな日本とは対照的な存在として、マリアと彼女を取り巻くフィリピン人コミュニティを描きたかったのです。





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