違うことが当たり前
Q:日本ではそうしたフィリピンのようなコミュニティは減っていき「不寛容」「無関心」「他人事」が加速しています。一方でSNSでは、個人叩きに執着する人たちもいる。そんな社会が変化するためには、どうすれば良いと思いますか?
早川:自分と他人は同じ考えではない。ということを分かっておくことでしょうか。自分が考えていることが一番正しいとか、皆も自分と同じことを考えているはずだとか、そう思い込んでしまうと、意見の違う人たちに対して攻撃的になってしまう。違うのが当たり前ということを前提にして、それをお互いに受け入れていくことが大事なのでは、と思います。
以前アメリカに住んでいたときや、今回フランスで仕事をしたときにも感じましたが、向こうだと「違うことが当たり前」という前提があるので、違う意見を言われてもそれが軋轢にならない。豊かなディスカッションが生まれやすいし、新たな視点や考え方を知る機会になります。それが日本では、場の空気を読む必要があったり、同じであることを求められる。そうしたことが人とコミュニケーションを取る上での障害となり、生きづらさや鬱屈したものを生み出しやすいのかなという気がします。
『PLAN 75』©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
Q:早川監督は本作で40代半ばでの長編デビューとなりますが、同世代の中にはそのことに勇気と希望をもらった方も多いと思います。今後はどんな映画を作っていきたいですか?
早川:自分が作るものは、ドラマの起伏があまりなかったり、説明やセリフが少ないものだったりするので、果たしてこれが観客に受け入れられるだろうかという不安がありました。それが今回『PLAN 75』を作ってみて、ちゃんと届いているなという実感を得られたので、「やっぱりこれでいいんだ」と。多分今後も同じようなスタイルで作っていくと思います。
Q:最後に、ご自身が影響を受けた映画監督や作品があれば教えてください。
早川:好きな監督でいうと、イ・チャンドンやエドワード・ヤン、クシシュトフ・キェシロフスキですね。
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監督・脚本:早川千絵
NYの美術大学School of Visual Artsで写真を専攻し独学で映像作品を制作。短編『ナイアガラ』が2014年カンヌ映画祭シネフォンダシオン部門入選、ぴあフィルムフェスティバルグランプリ、ソウル国際女性映画祭 グランプリ、ウラシジオストク国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。18年、是枝裕和監督総合監修のオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』の 一編『PLAN75』の監督・脚本を手がける。その短編からキャストを一新し、物語を再構築した 本作にて、長編映画デビューを果たす。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『PLAN 75』
6月17日(金)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee