芝居をせずに「ただ、話す」
Q:あみ子役の大沢一菜さんが素晴らしかったです。彼女は小学校六年生くらいですか?
森井:今は小五です。撮影当時は小四でした。
Q:小学生と中学生、それぞれのあみ子が出てきますが、映画を観ている時は同じ子が演じているか確信が持てず、エンドロールを見て同じ大沢一菜さんだとわかって驚きました。
森井:彼女は小四にしては大きいらしいです。背の高さは後ろから3番目だと本人が言ってました。映画ではそれぞれ小五と中一の設定です。小五と中一って背丈的にはあんまり変わらない子もいるよなと。それでいけるだろうと判断しました(笑)。
Q:オーディションは映画の舞台の広島で実施されたのですか?
森井:東京と広島でそれぞれオーディションをしました。大沢さんは東京で、のり君役の大関悠士くんと坊主頭役の橘高亨牧くんは広島で受けた子です。3人とも演技経験は無く、それまで普通の小学生でした。
Q:お兄ちゃん役の奥村天晴くんは『WE ARE LITTLE ZOMBIES』(18)に出ていた奥村門土(モンド)くんの弟ですよね? 容姿だけでなく仕草も似ていた気もしました。
森井:そうです。モンドくんの弟です。助監督をやっていたときに別の作品でモンドくんにオーディションで声をかけたことがあって、そのときから気になっていました。それで今回は弟の天晴にオーディションに来てもらいました。
Q:そうして子どもたちに出会って、ほぼ直感的に決められたとのことですが、演技経験のない子どもを演出することに不安はありませんでしたか?
森井:逆に不安はなかったですね。子どもたちが役を対象化して「あみ子ってこんなことするよな」「のり君ってこんな風にするだろ」「坊主頭はこういう性格だ」などと意識して演じられるのは困るなと。彼らのままやって欲しかったんです。
Q:3人はもともと役に近い感じの雰囲気を持っていたのでしょうか。
森井:役の雰囲気の延長線上にいる子を選んではいますが、似てないところもあると思います。本人と役を掛け合わせたときに、どういう風になるのかが大切。そのためにはセリフを言うときには、役に合わせてはいけない…。ややこしいですね(笑)。
『こちらあみ子』©2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ
Q:大人に説明するのも難しいですが、子どもたちにはどうやって説明されたのでしょうか。
森井:子供には「お芝居をするな」と言いました。お芝居せずにそのままでやって欲しいと。だから「ただ、話す」ということをやってもらった感じです。
Q:子どもたちの演技は本当に素晴らしかったのですが、そもそも今回の場合は“演技”ではないということでしょうか。
森井:演技はしています。ただし演じようとはしていない。演じるということは、自分が役と全く同化するか、役を対象化してその役に成りきろうとするかの二つしかないと思われがちですが、「ただ、話す」ということも、僕はありだと思うんです。その存在のまま役をやる。そのときに嘘はないという感覚がすごくあって、逆に役に成りきる方が嘘だという感覚があるんです。
Q:予告編にも出てきますが、あみ子が「気持ち悪いんじゃろ?」と話すシーン、あそこはすごいですよね。人間の真剣な空気があそこに出来上がっている。もうすごいとしか言いようがないのですが、さすがにあのシーンでは状況を感じていないと、あの空気は出ないのかなと。「あみ子(大沢さん)はわかってくれたんだと思う」と、監督は資料でコメントされていましたね。
森井:そうなんですよ。僕は何も言わなかったのに、あのトーンになったんです。撮影していてびっくりしました。
Q:あれは1テイクですか。
森井:いや、結構撮りました。7〜8テイクぐらいやってます。
Q:あみ子と坊主頭とのシーンでしたが、二人ともすごいですね。煮詰まって泣き出したりするようなことはなかったのでしょうか。
森井:撮影中に雷が激しく鳴ったときがあって、そのとき一菜は泣いちゃいました(笑)。毛布に包まって出て来なくなっちゃって、出てくるまで皆待っていました。急に虫が飛んで来たりして、そういうことでも泣いていましたね(笑)。