演技指導はしていません
Q:父母役は井浦新さんと尾野真千子さんです。大人の二人にはどのような演出をされたのでしょうか。
森井:二人に関しては演出していません。役者さんたちにとっては場の空気や環境がいちばん大きいと思うんです。今回はあみ子を中心に回っていたので、二人ともその空気を察してくれて演じてくれた。僕はそれを信頼していたので、細かいことはあまり言ってません。動きだけをお伝えした感じでした。
Q:井浦新さんの父親役は他の映画でも観たことがありますが、これまで演じてきた父親役とは微妙に違っていて、それでいて印象は全然違う。すごく良かったです。
森井:そうですよね。新さんすごく良かったですね。今回は一菜が飽きないように、カメラをいきなり構えて「今から撮影します!」とリハーサルもせずに撮ったことも多かったんです。そんな中でよくやっていただきました。
『こちらあみ子』©2022『こちらあみ子』フィルムパートナーズ
Q:俳優(素人)に演技をつけるということは、森井監督はどのように学ばれたのでしょうか。
森井:演技指導みたいなものは正直わからないですね。演技指導はしてないかもしれません。子どもたちから何かを引き出すことを演技指導というのであれば、僕は引き出していません。「お前の○○な気持ちが見たいのにまだ出てない!」みたいな演出はしてないですし、実はそれはもう出てるんです。子どもたちがそこに立っている時点ですでに出ていて、それを如何に撮りこぼさないようにするかが大事。
結局キャスティングの段階でほとんど決まるんだと思います。あの子たちが出演してくれたから、今回のような画が撮れた。現場で「お前のもっとコアな部分が見たい!」といくら言ってもあまり意味がないと思っています。
あとは映画としての構成ですね。映画のリズムみたいなものを作る必要があるのですが、そっちはすごく分かるんです。僕が助監督として大森立嗣監督についていたときに、編集まで立ち会っていたのが大きいですね。どういう風につないでいくかを頭で想定しながら撮っているので、そのリズムは気をつけました。
Q:そのシーンのリズムなのか全体のリズムなのか、どちらですか。
森井:それは両方です。全体のリズムに対して、そのシーンやカットのリズムが合うかどうか、前後のカットまで細かく想定した上で撮っています。かなり具体的な作業ですが、それは監督たちは皆やっているのではないかと思います。
Q:全体のリズムを念頭に置きながら、今目の前のシーンのリズムを作り出す。なかなか大変な作業ですね。
森井:そうですね。大変だと思います。少しでも自分の中に隙があると、それが崩れていく可能性がある。ただ今回は原作が本当に大好きだったので、読んだときの体験が自分の中に確固としてあった。だからもし迷ったら自分自身に聞けばよかったんです。そこで出た自分の意見に従っていくと割とスムーズにリズムが出来ていきました。