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『ボイリング・ポイント/沸騰』フィリップ・バランティーニ監督 ワンショット映画を成功させた経験と決断【Director’s Interview Vol.223】

© MMXX Ascendant Films Limited

『ボイリング・ポイント/沸騰』フィリップ・バランティーニ監督 ワンショット映画を成功させた経験と決断【Director’s Interview Vol.223】

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人気レストランを借り切って撮影



Q:撮影場所はロンドンでも人気のレストラン(ジョーンズ&サンズ)です。リハーサルも含め、キャストにその場に馴染んでもらうために、どのくらい借りたのですか?


バランティーニ:4週間です。もちろんその間に想定される売上は支払いましたよ(笑)。じつはジョーンズ&サンズは、かつて私が短期間ですが働いていた店なんです。店名にもなっているオーナーのアンディ・ジョーンズは私の友人なので、撮影の許可をもらうことができました。実際にワンショットに向いている構造でもあるんですよ。脚本段階から店の内部を想像しながら、カメラや俳優の動きを組み立てていきました。


Q:4週間のうち、最後の数日間が本番だったわけですね。


バランティーニ:最後の4日間で、それぞれ2回ずつ撮影する予定にしていました。最初の1回は最終リハーサルとして撮り、本番は計7回。しかしちょうど新型コロナウイルスのパンデミックと重なり、初日の撮影を終えたところで、プロデューサーから非情な通達を受けました。イギリス政府がロックダウンを決めたので、明日、つまり2日目で撮影を終えなくてはならない、というのです。ですから撮影できたのは計4回のみ。2日目が終了した時点で、スタッフやキャストとは離ればなれになりました。


Q:その4回のうち1回が今回の完成作になったと思いますが、1回撮って、その反省点を修正して次へ……という流れだったのでしょうか?


バランティーニ:回を重ねるごとに、現場の全員がステップアップしたと思います。たとえば3回目では、その前の2回よりも前半のテンションを高くしました。そして4回目は最後がうまくいったと感じました。映画としての理想形は、3回目の前半と4回目の後半を使うことですが、ワンショットが絶対条件の作品なので、結局3回目を採用しました。フォーカスが甘かったり、明らかにどこにも合っていない映像も、通常の映画と違ってポストプロダクションで微調整できません。私は完璧主義者ですが、今回は不完全であることも受け入れるべきだと判断しました。人間の人生だって、完璧には運ばないのですから(笑)。

 

『ボイリング・ポイント/沸騰』© MMXX Ascendant Films Limited


アクシデントも幸運に変わる即興の妙



Q:ワンショット撮影なので、本番中にさまざまなアクシデントも起こったのではないですか?


バランティーニ:最も重要なのはタイミングです。映画を観ればわかるとおり、あまりに多くのキャラクターが行き来しますから、全員が適切な位置で動くことが要求されます。俳優たちには小型のイヤーピースを着けてもらい、指示を出しました。冷蔵庫の中に台本を入れ、映ってない時間に確認している俳優もいました。もちろんセリフや動きの間違いはいくつも発生しましたが、ラッキーなアクシデントもありましたよ。スティーヴン・グレアムをカメラが追いかけるシーンでは、カメラマンの足元にあったゴミ箱をスティーヴンが一瞬の判断で蹴って動かしたのです。あのままだったらカメラマンが足に引っ掛けて転倒し、そこで撮影が中断していたでしょう。それも含め、映画の撮影ですが、ステージでのライヴ公演に近い感覚でしたね。何が起こっても俳優たちを慌てさせないことが、私の役割でした。


Q:劇中で出される料理は、シェフ役の俳優が実際に作ったものなのですか?


バランティーニ:もちろん俳優たちにはプロのシェフの下でトレーニングしてもらいましたが、さすがに短期間で熟練の技は習得できません。劇中で客に出される料理は、あらかじめプロのシェフが作り、冷蔵庫などに保管しておきました。いくつかの料理は、盛り付けだけを俳優が実際に行っています。




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