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『ボイリング・ポイント/沸騰』フィリップ・バランティーニ監督 ワンショット映画を成功させた経験と決断【Director’s Interview Vol.223】

© MMXX Ascendant Films Limited

『ボイリング・ポイント/沸騰』フィリップ・バランティーニ監督 ワンショット映画を成功させた経験と決断【Director’s Interview Vol.223】

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撮影手法がフィルムからデジタルに変わったことで、長編映画を撮る際に可能になったチャレンジがある。それは、ワンショット(ワンカット、ワンテイクとも呼ばれる)。フィルム時代では長くても15分程度までしかカメラを回し続けられなかったため、アルフレッド・ヒッチコック監督の『ロープ』(48)のように、巧みな編集によって“ワンショット風”に見せるしかなかったのだ。この制約が、デジタルによって取り払われたのである。


全編ワンショットに挑む映画監督も増えた。ただ、まったくカメラを止めない撮影は相当にハードルも高く、ワンショットであることを作品の売りにしつつ、要所ではうまくつないでいる『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)や『1917 命をかけた伝令』(19)のような作品もある。日本映画では『カメラを止めるな!』(18)の前半パートがワンショットだった。そしてもちろん、正真正銘の全編ワンショット映画も作られてきた。『ボイリング・ポイント/沸騰』は、ロンドンのレストラン、その店内(一部、店の外)を舞台に約90分、カメラが回り続ける。全編ワンショットが見事に成功した一作だ。これが長編2作目となる監督のフィリップ・バランティーニに、ワンショットへのこだわり、そしてワンショットをいかに成功させたかという舞台裏などを聞いた。


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見せかけのワンショットにするつもりはなかった



Q:2019年の短編『ボイリング・ポイント』で、すでに約20分のワンショットに挑んでいます。今回のような長編を想定していたのでしょうか。


バランティーニ:映画監督ですから長編を撮る意欲はありました。そして(かつて働いた経験のある)レストランを舞台に魅力的な作品ができないか模索しながら、短編でワンショットの手法を試したところ、いくつかの映画祭で高く評価されたのです。次はワンショットで90分くらいの映画の旅に観客を連れて行きたいという欲求が湧き上がりました。『エルミタージュ幻想』(02)や『ヴィクトリア』(15)を観ていましたから、技術的には可能だと信じていました。私の知るレストランでの時間を、リアルタイムで体感してもらえる最高のチャンスになると思いました。



『ボイリング・ポイント/沸騰』© MMXX Ascendant Films Limited


Q:『バードマン〜』や『1917〜』のように“ワンショット風”に撮るのではなく、90分もカメラを回し続けるうえで、最終的な決め手となったポイントは何ですか?


バランティーニ:撮影監督のマシュー・ルイスが90分間カメラを持ち続けることが可能か。彼に尋ねたら、「問題ない。絶対にやってみたい」という返事をもらいました。あとは(短編にも主演した)スティーヴン・グレアムの参加ですね。短編を撮った時、彼は「最高の経験だった」と話していました。それで今回も声をかけたところ、「あれを90分やるなんてクレイジーだ」と言いつつ、すぐに快諾してくれました。スティーヴンの出演が決まったことも、制作のゴーサインのきっかけです。


Q:そのスティーヴンに限らず、レストランの従業員を演じるキャストたちは、“何年もそこで働いていそう”な雰囲気でした。


バランティーニ:オーディションで約1,000人の俳優から選びました。レストラン業界で一緒に働いた人をイメージして脚本を書いたので、選んだポイントは各キャラクターをしっかり把握できるかどうか。そして特殊な撮影の現場なので即興の演技に対応できることもポイントでした。キャスティングの後に私が重視したのは、選んだ俳優たちに、舞台となるレストランの空間に“慣れて”もらう時間を作ることでした。




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