1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『長崎の郵便配達』川瀬美香監督 死者とのコミュニケーションを通し未来を見つめるドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.226】
『長崎の郵便配達』川瀬美香監督 死者とのコミュニケーションを通し未来を見つめるドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.226】

© The Postman from Nagasaki Film Partners

『長崎の郵便配達』川瀬美香監督 死者とのコミュニケーションを通し未来を見つめるドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.226】

PAGES


台本を作らずに撮影



Q:映像がとても美しく画面に引き込まれます。監督も撮影をされているそうですね。


川瀬:人物周りはカメラマンにお願いしていますが、それ以外は自分で撮っています。


Q:原爆に関する痛ましい話の中で、随所に自然の美しい風景が差し込まれます。その対比が、原爆の記憶をより引き立たせています。


川瀬:自然を撮ることに関しては一番時間を使いました。何年もかかっていますね。痛ましい記憶ももちろん表現しているのですが、痛ましい記憶を自然の映像が癒してくれるという効果もあると思います。ピーターさんも自然が大好きだったそうです。彼への尊敬の念も込めて、映画を見ている人がゆったりと自然に包まれていくような感覚を体験してくれたらと思いました。


Q:イザベルさんの長崎ロケでは、台本を書かずに撮影に臨まれたそうですが、どんな狙いがあったのでしょうか?


川瀬:彼女は「長崎でお父さんの足跡をたどりたい」という気持ちがとても強かったのですが、長崎には当時を偲ばせるものはほとんど残っていませんでした。さらにピーターさんと実際に会ったことがある人も1人か2人しか存命していない。そんな状況で彼女は実際にどう思うのか、その時の顔つきや、言葉を撮ることを意図していました。だから彼女には「今日はここに行きます、次はここに行きます」という程度のことだけ伝えておいて、そこがどんな場所で、誰が待っているのかは伝えずに撮影を行ったんです。



『長崎の郵便配達』© 坂本肖美


Q:その方がイザベルさんの素直なリアクションを映像に収められますね。


川瀬:初対面の人と会っている時の顔や、言葉の食い違い、相づち。細かいことですが、そういった部分で彼女の人となりを表現できます。様々な思いを抱えて彼女が長崎にやってきたことが、映像で表現できるといいなと思いました。


Q:確かにイザベルさんの何気ない佇まいや表情が随所にあって、非常に印象的です。


川瀬:私たちは亡くなったピーターさんや谷口さんの伝記映画を作るつもりはありませんでした。今生きてる人を描くことで、未来のための映画を作っていると考えていました。関係者で今生きている人はイザベルさんしかいないわけです。だから彼女の経験や顔つきを通して私たちが彼女と同期していくことが重要だと思い、彼女の存在を大事にしました。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『長崎の郵便配達』川瀬美香監督 死者とのコミュニケーションを通し未来を見つめるドキュメンタリー【Director’s Interview Vol.226】