橋口亮輔、矢口史靖、李相日、荻上直子、石井裕也、錚々たる映画監督を送り出してきた「PFF(ぴあフィルムフェスティバル)スカラシップ」。そこからまた新たな才能が飛び立った。工藤梨穂監督がPFFスカラシップで手がけた商業デビュー作『裸足で鳴らしてみせろ』は、荒削りな初期衝動の勢いを核にもちつつも、繊細な感情の移ろいを見事に描き出す。各界からの絶賛に溢れるこのデビュー作を工藤監督はどう作り上げたのか?本人に話を伺った。
『裸足で鳴らしてみせろ』あらすじ
父の不用品回収会社で働く直己(佐々木詩音)と、盲目の養母・美鳥(風吹ジュン)と暮らす槙(諏訪珠理)。二人の青年は、「世界を見てきてほしい」という美鳥の願いを叶えるために、回収で手に入れたレコーダーを手に“世界の音”を求めて偽りの世界旅行を繰り広げていく。サハラ砂漠を歩き、イグアスの滝に打たれ、カナダの草原で風に吹かれながら、同時に惹かれ合うも、互いを抱きしめることができない二人。そんなある日、想いを募らせた直己は唐突に槙へ拳をぶつけてしまう。それをきっかけにして、二人は“互いへ触れる”ための格闘に自分たちだけの愛を見出していくが……。
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自主制作からプロの現場へ
Q:PFFでグランプリを獲られたのが2018年の9月でした。その後すぐにスカラシップ獲得へ向けてこの企画を進められたのでしょうか。
工藤:そうですね。2018年の末に一度企画を出しました。内容的にはロードムービーでしたが今とは全然違う話でした。自分でもあんまりピンと来ないまま出しちゃったんですけど、そこから何度か練り直して、やっとこの映画の基となる話が出来ました。最終的に映画製作が決まったのは2019年の8月でしたね。
Q:では撮影はコロナ前だったのでしょうか?
工藤:いえ、そこからも脚本の改訂を重ねて、撮影を敢行したのは2020年10月だったのでコロナ禍の最中でした。
Q:その撮影では、自主制作の現場からプロのスタッフ・キャストが集まる現場へと変わったわけですが、プレッシャーや不安はありませんでしたか。
工藤:ありました。当初は同世代のスタッフの方が安心してやれるかなと思っていたのですが、一方でベテランの皆さんに身を委ねてみようという思いもありました。それで、信頼する同世代のスタッフに参加してもらいつつも、撮影の佐々木靖之さんや録音の黄さんをはじめベテランの方々に集まっていただきました。プレッシャーと緊張はずっとありましたね。
『裸足で鳴らしてみせろ』(C)2021 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF
Q:撮影の佐々木さんは監督からリクエストされたのですか?
工藤:最初はラインプロデューサーの仙田さんが薦めてくれました。私も佐々木さんが撮影された『寝ても覚めても』(18)などは観ていたので、そんな方にお願いできるのかなぁ…という思いでした。
Q:自主制作時代の『オーファンズ・ブルース』も撮影のクオリティーは高いですよね。
工藤:あの作品は、大学の同級生で、ずっと一緒にやってきた仲間の谷村咲貴が撮っています。
Q:そうやって同世代の仲間と撮ってきた環境から、ベテランのスタッフ・キャストと一緒に作ることになるわけですが何か違いは感じましたか。
工藤:自分より年代が高い方をメインキャストとして迎えることがこれまでなかったので、今回は、皆さんから教えてもらうことが多かったですね。脚本に対するアドバイスや、キャラクターに対する考え方など、甲本雅裕さんや風吹ジュンさんからアドバイスをいただきました。