岨手由貴子監督の新作は連続ドラマ『すべて忘れてしまうから』。現在ディズニープラス「スター」で絶賛配信中だ。前作『あのこは貴族』(21)とのトーンの違いに驚きつつも、クセになる面白さでついつい観続けてしまう。ドラマ全体に漂う力の抜き具合が心地よく、個人的には往年の久世光彦演出のドラマのようにも感じてしまった。こんなドラマを待っていた人は案外多いのではないだろうか。
連続ドラマは初めてだったという岨手監督だが、実際の制作はどうだったのか?話を伺った。
『すべて忘れてしまうから』あらすじ
彼女はなぜ、消えたのか――。ハロウィンの夜に、5年間付き合った彼女が消えた。ミステリー作家の “M”は、突然失踪した彼女“F”を探すことに。しかし、人々が語るFは、彼の知らない顔を持っており、やがて驚きの秘密が明らかになっていく…。
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エッセイをドラマ化する
Q:今回のドラマを手がけることになった経緯を教えてください。
岨手:本作のプロデューサーから、「燃え殻さんの原作でドラマやらない?」と連絡をいただいたんです。「楽しそうですね。読んでみます。」とお返事はしたのですが、特に具体的なことは決まっていませんでした。その後、燃え殻さんとお会いする機会があり、そこからだんだん具体的な感じになっていきました。ちょうど『あのこは貴族』が公開された頃の話です。
Q:原作は燃え殻さんのエッセイですが、それをドラマとして脚本化にするにあたりどのように進められたのでしょうか。
岨手:原作の各エピソードのニュアンスや、燃え殻さんが大事にされているものには共感できたので、自分との相性は良いだろうなと思っていました。ただあくまでもエッセイなのでメインのストーリーとなるものがなかった。連ドラにするには何か柱が必要だなと、まずはそのストーリーを決めるところから始めました。
『すべて忘れてしまうから』© Moegara,FUSOSHA 2020 © 2022 Disney and related entities.
Q:「彼女がいなくなる」話を加えた感じですか。
岨手:そうですね。燃え殻さんの小説に「これはただの夏」という作品があるのですが、そこにも同じような要素があるんです。「女性が消える」って、何だかミステリアスでポエティックに聞こえますが、女性からすると、ただ振られただけなのでは?とも思ったり。生活もあるだろうし現実的には人が消えるって難しい。ある日突然全てを捨てていなくなるってどういう気持ちなんだろうと、個人的な疑問もありました。消えた女性の方にどんなストーリーや背景があったのか、それを主人公が徐々に知っていくという話にすれば、よくある「女性がいなくなる」という設定を使いつつも、これまでとは違うアプローチで話を展開出来るのではと。
Q:脚本にはどれくらいの時間をかけられたのでしょうか。
岨手:今年の1月末から書き始めたので、かなりハイペースでした。3日に1話くらいのペースで書かないと間に合わないような状況でした。
Q:かなり時間がなかったですね。
岨手:撮影が始まったのは春ですし、最終話が完成したのは9月の中旬でした。かなり急ピッチで書いて撮ってみたいな感じでしたね。