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『土を喰らう十二ヵ月』中江裕司監督 人にとって豊かなものとは?【Director’s Interview Vol.257】

『土を喰らう十二ヵ月』中江裕司監督 人にとって豊かなものとは?【Director’s Interview Vol.257】

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撮影の都合を優先しない



Q:脚本は一気に書き上げられたとのことですが、それから撮影までに稿を重ねられたりはしましたか?


中江:バーっと書き上げたあとは、プロデューサーと一緒に直していくのですが、今までの僕の映画に比べるとそれほど直してません。僕、いつも何度も直すんですよ(笑)。下手したら100回くらい直す。『ナビィの恋』(99)なんて100稿超えてると思います。ナビィは3年くらいかかりましたが、今回はたぶん1年くらいだったかな。それでも10〜15稿くらいは書いてると思います。他の映画と比べると多い方でしょうね。


Q:具体的にどういったところが変わるのでしょうか。


中江:基本的には最初のシノプシスでほぼ出来ていました。あとは微調整を繰り返しただけで、大きな変更はあまりないですね。人物の設定やラストも決まっていたので、シーンの入れ替えをした程度。だから僕の中では非常に順調だったんです。


Q:季節を追って一年半かけての撮影や、実際にツトムの住む家を作ったりと、撮影の規模は大きいような気もします。その辺は企画段階からスムーズに進んだのでしょうか。


中江:この映画は春夏秋冬1年以上かけて撮らないと絶対成立しない。その話は最初からプロデューサーとしていたので、そこは覚悟を決めていました。その代わりスタッフの数はものすごく絞ってます。


Q:映画のために野菜も一から育てたと聞きました。


中江:そうですね。この映画の場合は、撮影の都合を優先することは避けなければという感覚がありました。作物や料理、器などへの哲学は、土井善晴さんに相談して一緒に作り上げたものです。



『土を喰らう十二ヵ月』© 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会


Q:器や美術などのモノの良さは、素人目にも感じました。古いものに関しては、監督の記憶を辿ったりもされたのでしょうか。


中江:母方の実家は農家で“かまど”があったので、そこでご飯を炊いているのを子供の頃に見てはいました。そういう経験はありますが参考にしたほどではなかったかな。何となく、豊かな場所にしたかったんです。撮影で使った家の近くには実際に湧き水が出ていたので、それを家の中に引いて常に水が流れていたら、それはすごく豊かなことだなと。水道をひねって水が出てくるのではなく、常に清涼な水がそこに流れている。また、ツトムの家には常にお花が生けてあるのですが、あれは山で咲いている季節のもの。家の中に自然を持ち込むようなもので、日本人の自然観ですよね。


Q:ツトムの家で印象的なのは、居間にある一枚窓でした。実際の抜け(窓から見える景色)を踏まえて配置されたのでしょうか?

 

中江:その通りです。ロケハンの際、雪が積もってる中を歩いてあの家を見つけたんです。普段は人が来ない場所だから全く除雪されてないんですよ(笑)。その日はすごく晴れていてあの家の向こうに北アルプスの風景がバーッと見えた。その風景がツトム像を後押ししてくれましたね。ツトムはこの風景が好きでここに住むことを決めたんじゃないかなと。あの窓から北アルプスが見えてますが、一切合成してません(笑)。あの風景は自然の借景だから本物じゃないと作れない。


Q:すごくいい感じで光も入ってきています。


中江:ほぼ自然光で撮影しました。光量が足りないのでフォローしている部分はありますが、基本は自然光生かしですね。光がきれいになる状態を待ちつつ撮影していました。




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