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『土を喰らう十二ヵ月』中江裕司監督 人にとって豊かなものとは?【Director’s Interview Vol.257】

『土を喰らう十二ヵ月』中江裕司監督 人にとって豊かなものとは?【Director’s Interview Vol.257】

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豊かなものって何だろう



Q:チエのお通夜のシーンでは、弔問客を地元の方が演じられています。


中江:そうですね。応募して参加してくださった方々でリハーサルを重ねて、上手な人や味のある人に出てもらいました。最大の理由は地元(長野)の言葉です。役者さんがいくら上手にやっても微妙なニュアンスがなかなか難しいので、そこのリアリティーを持ち込んで欲しかった。


Q:このお通夜のシーンはとても好きでした。不謹慎ですが喪のときに何故かちょっぴり感じてしまう「ワクワク感」が伝わってきました。あのシーンは原案にはあるのでしょうか?

 

中江:エッセイには全然ありません。ものを食う話なので、基本的には全て日常の料理の話なんです。ただ、お通夜のところだけは非日常。そこは土井さんとも相談しすると「日常と非日常で料理はきちんと分けなければいけないね」と話されました。それで、ツトムが禅寺の小僧として料理番をやっていた経歴から、胡麻豆腐を作ることにしたんです。あの料理はものすごく手間がかかるのですが、想像以上に弔問客が多くて大騒ぎになっちゃう(笑)。


また、お通夜の席では、変わり者で偏屈で人づき合いも悪いと思われていたチエが、実はそうではなかったことが初めて分かる。故人である義母のチエの印象が変わることは、ツトムにとって大きかったと思います。チエはツトムのちょっと先を行ってる人なんです。ツトムはいずれチエみたいになるんじゃないのかな。だからチエ像はすごく考えましたね。


チエは旦那さんと一緒に炭焼きをやっていたけれど、旦那さんは早くに亡くなったので、一人で炭焼きを続けながら一生懸命生きてきた。村の後輩のおばさんたちに味噌作りも教えていたけど、自分が古希を迎えてからは後輩たちに味噌作りを引き継ぎ、自分の役割はもう終えたとスパッと身を引く。息子の嫁と折り合いが悪いから家は出て、自分の一番好きな場所、田んぼの真ん中の農機具小屋みたいなところで暮らし出す。チエにとってはそこが一番豊かな場所なんです。その横に小さい田畑を作って、自分の食べるものだけを作り最低限の暮らしをしている。そして好き勝手に生きて勝手に死んでいく。そのことがツトムに対して刺激を与えたんだと思います。だからツトムはチエに全然頭が上がらないんです。まあ、僕の妄想ですけどね。



『土を喰らう十二ヵ月』© 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会


Q:ツトムのような過ごし方に憧れもありつつ、今の自分の忙しない状況を鑑みると諦観や難しさも感じてしまいます。監督ご自身はツトムのような生き方をどう思いますか?

 

中江:それは人間の本質的な部分だと思います。人間は一人で生まれて一人で死んでゆく。その間に食べなきゃいけないから「じゃあ何か食うか」と。まぁ人間なんてそんなもんですよ。恋をするなら恋もして、家族が出来るなら出来て、社会に対しては何か出来るわけでもなく、勝手に死んでいけばいいという極めてシンプルな生き方。でも都会にいるとそれだけでは生きていけない。人がたくさんいる分、思惑もいっぱい出てくる。人より優れた人間でありたい、有名になりたい、いい仕事をしたい、モテたい、そういったくだらない思惑がいっぱい生じてくる。もちろんツトム自身も本質的な姿を実践しているわけではないんです。ただし、そういうことを分かろうとはしている気はします。


悟っている人って、人間じゃないですよね。悟らないから人間なんだと思います。俗っぽくて悟らなくても本質的なものは追い求めたい。でもそんなものは向こうからやって来ないし手にも入らない。そんな中で悶々としながらも、今日一日ご飯を食べられて生きられるだけで感謝。結局はそれだけ。そういったことを描きたいと思っていました。


Q:確かに、“思惑”ですね。それに振り回されて生きている気がします。


中江:そうですよ。思惑はあっていいんです。あってもいいと思うのですが、それをどう捨てようと思うかどうか。思惑というものは脳が勝手に暴走しているだけ、僕はそう思うようにしています。心はもっと健全でありたいと思ってるけど、脳はどうしても暴走する。思惑を求めて走っていっちゃう(笑)。それに振り回されたら、心も何もかも分からなくなるぞと気をつけていますが、結局何も全然わかっちゃいませんね(笑)。ただ、豊かなものって何だろう?というのはずっと思ってました。「人にとって豊かなものって何だろう」とね。




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監督・脚本:中江裕司

映画監督、株式会社クランク代表取締役社長。1960年11月16日、京都府生まれ。琉球大学農学部卒業。80年に琉球大学入学と共に沖縄に移住。琉球大学映画研究会にて多くの映画を製作。92年、『パイナップル・ツアーズ』の第2話「春子とヒデヨシ」でプロデビュー。99年、『ナビィの恋』を監督。沖縄県内をはじめ全国的に大ヒット。2002年、『ホテル・ハイビスカス』が、全国公開され大ヒット。05年に那覇市に「桜坂劇場」をオープンし、運営会社のクランク代表取締役社長に就任。映画監督として活動しながら、桜坂劇場を経営している。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成





『土を喰らう十二ヵ月』

11月11日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他にて全国公開

配給:日活

© 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

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