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『土を喰らう十二ヵ月』中江裕司監督 人にとって豊かなものとは?【Director’s Interview Vol.257】

『土を喰らう十二ヵ月』中江裕司監督 人にとって豊かなものとは?【Director’s Interview Vol.257】

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作家の水上勉が1978年に雑誌ミセスに連載した料理エッセイ「土を喰う日々-わが精進十二カ月-」。その世界観を元に『ナビィの恋』(99)の中江裕司監督が脚本を執筆、監督も務めたのが、映画『土を喰らう十二ヵ月』だ。主人公の作家・ツトムには沢田研二、その恋人である編集者・真知子には松たか子と、豪華なキャスティング。四季を追っての1年半かけた撮影や、出てくる料理や器は料理研究家の土井善晴が担当するなど、撮影にもこだわりが見てとれる。


俗世を離れ山で一人暮らし、畑で育てた野菜や山菜を使った精進料理を食べて生きるツトムだが、こういった生活に憧れる人は実は少なくないのかもしれない。中江監督は原案エッセイに何を見出し映画化を望んだのか?話を伺った。


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生きることと食べること



Q:本作のきっかけは、『盆唄』(19)の編集中に原案エッセイに出会われたことだと聞きました。意外と最近ですね。


中江:そうなんです。水上勉さんのミステリーやサスペンスは高校生のときに随分読んでいましたが、この本は知らなかったですね。


Q:エッセイを物語にするにあたり、オリジナル部分も追加されたのでしょうか。


中江:物語に関しては僕の妄想です(笑)。このエッセイを読んでいるときから物語は感じていたし、読んでいくうちにどんどん妄想が広がった。このエッセイにはツトムの人生が明確に書かれているわけではありません。でも水上さんは、それが文章の端々や行間から滲みでてくるように書いている。そこを感じ取りました。


Q:エッセイには映画の登場人物も書かれていないのでしょうか。


中江:恋人の真知子も亡くなった奥さんもエッセイには出てきません。ツトムの義母のチエは、山椒をご飯に擦りつけて食べるという水上さんの実際のお祖母さんを元にしています。



『土を喰らう十二ヵ月』© 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会


Q:映画を観て感じるのは「食」と「生」でした。「生」は死を描いているから逆説的に感じさせられる。原案エッセイからもその要素は感じられていたのでしょうか。


中江:食べる話のエッセイなので、当然生きることを前提として書かれていて、死のことはあまり書かれていません。ただ、人は死を前提に生きているので、生きることが書いてあるということから、直接は書かなくても「死」を感じ取っていたと思います。シノプシスを書いた後に、水上さんの他のエッセイや小説を色々と読んだのですが、非常に死生観が強い人だなと思いました。自分が最初に感じた感触は間違ってなかったなと。


Q:水上さんの数多ある作品群の中から選ばれたのが「食のエッセイ」だったのはなぜですか?


中江:生きることと食べることに差が無くて全部つながっているから。でしょうか。究極的に言うと禅の精神みたいなことですね。生きることと食べること、もっと言うと愛することや死ぬことまで、全部つながっている感じがするんです。




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