ジャズのように変化し続ける漫画「BLUE GIANT」
Q:漫画「BLUE GIANT」では小さなコマの連続から、大ゴマへの転換などが非常に効果的です。影響を受けた先行作品はありますか?
石塚:漫画は膨大な量があるので、ありとあらゆる作品の良い場面を取り込んでいくことは、意識するしないに関わらずあると思います。特に弘兼憲史先生(「課長島耕作」など)の画面はすごく広くて、映画を観ているように感じるのですが、「あんな風に見えたらいいな」と思いながら描いています。
Q:しげの秀一先生(「頭文字D」など)にも影響されているとお聞きしました。
石塚:連載が始まった頃にNUMBER8さんから、「これは読んでおいた方がいい」と「バリバリ伝説」というバイク漫画の走っているシーンをすすめられました。作中のバイクは動いてないわけですが、説得力がありました。疾走している時にマフラーから出る音や、ギアをチェンジする音。それを読めないような描き文字で表現してあるのですが、そこにリアリティを感じました。「バリバリ伝説」は今も側に置いていて、作画スタッフたちと「今回はこれでいこうか」と時々参考にさせてもらっています。
『BLUE GIANT』©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館
Q:漫画では音楽を聴く観客の表情を巧みに描かれるのも印象的です。
石塚:大の音楽を全員が喝采するわけはなくて、中には呆れてる人もいるはずなんです。顔をしかめている人もいないと、やっぱりおかしい。そこは注意しないと、気づいたら全員拍手していた、みたいなことがあるんです。実はメインキャラクターたちを描くよりも、大変なところかもしれないですね。
Q:訝しげな顔をしている観客もいれば、笑顔の人もいる。その人たちの表情が少しずつ変化していくことで、楽器の音やその場の空気を表現されているのが素晴らしいと思います。
石塚:そこもやはり注意深く見ていないと表現できない部分なのですが、NUMBER8さんがチェックしてくれています。「もうちょっと増やした方がいい」とか「減らした方がいいんじゃないか」という風にアドバイスをもらいます。空気感として、そこは大事にしなきゃいけないので。
Q:連載ではセリフが一切ない回もありました。毎回表現手法を変える工夫をされているのも読みどころの一つだと思います。
石塚:ジャズの漫画なので、色々なアプローチでなるべく新しいこと、色んな表現の方法を模索しています。ジャズにはソロがありますが、ソロのように物語もいろいろな形をとって見せ続けたいですね。
Q:その作業はかなり面倒くさいのではないかなと思いますが…。
石塚:スゲー面倒くさいです(笑)。面倒くさいけれども、だからこそ面白いですよね。やっぱり仕事としては面倒くさくないとまずいですよね。楽だったらちょっと危ないんじゃないかなという気がします。ずっと変え続けていくことが「BLUE GIANT」の一つの形かもしれないですね。
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原作:石塚真一
1971年生まれ、茨城県出身。20代でアメリカ留学、帰国後は会社員を経て、漫画家に転身。2001年「This First Step」で第49回「小学館新人コミック大賞一般部門」に入選。2003年「ビッグコミックオリジナル」増刊号にて「岳 みんなの山」の連載をスタート。同作で第1回「マンガ大賞」(2008年)、第54回「小学館漫画賞(一般向け部門)」(2009年)、第16回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」(2012年)を受賞、2011年には実写映画化もされた。その後2013年より「BLUE GIANT」を「ビッグコミック」(小学館)で連載。同作で第62回「小学館漫画賞(一般向け部門)」(2017年)、第20回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞」(2017年)を受賞。現在は「BLUE GIANT」シリーズのアメリカ編となる「BLUE GIANT EXPLORER」(story director NUMBER 8)を連載中。
取材・文: 稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)
『BLUE GIANT』
2月17日(金)全国公開
配給:東宝映像事業部
©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館