ルーティンはシュリンクしか生まない
Q:金さんからは映画への熱い思いを感じますが、一方でロジカルでビジネス的な視点もある。そこはどのようにバランスを取られていますか。
金:映画に関わっている方は作品への熱量が高くクリエイティブな人が多い印象があります。一方で一般企業の方は物事を客観的に考える人が多い。僕はその懸け橋になりたいと思っています。そうすることにより新しいシナジーが生まれるかもしれない。どうビジネスプロデュースしていくのか、その視点を持って映画と向き合っていきたい。KDDIは映画会社ではないので、業界のルールや習わしに囚われることなくトライアルしやすい。それがビジネスや映画のヒットのきっかけになればいい。産業が成長しているときはビジネスフローをルーティン化するのは大事なプロセスだと思いますが、成長していない場合のルーティンからはシュリンクしか生まれない。映画の収益以外のビジネスやDXなどでの変革が必要だと思います。
Q:そういう意味でも、映画の出資に対して付加価値を付けることは非常に重要ですね。
金:そこが重要だと思っています。映画を製作すると皆作ることにのめり込んでしまいますが、映画をどう広げるかビジネスプロデュースする人間も対になって動く必要がある。「いい作品を作りました」がゴールではなく、国内に限らず海外や他の媒体など、どうビジネスモデルを作りその価値を広げていくか。ウインドゥ戦略*というものが登場した時、僕は素晴らしいビジネスモデルだと思いました。でも今はその各々のウィンドゥ自体がシュリンクしたり変化したりしている。そんな中、果たしてウインドゥ戦略だけでいいのか、うまくいっている会社は継続するでしょうが、うまくいってない会社は変化しないと生き残れない。皆持っている熱量を作品作りの方に向けがちですが、俯瞰で物を見る人間が作品をどう汲み取って広げていくのか、それも重要だと思います。映画業界は村社会と言われていますが、その村にいない人や会社のかかわりが増えてくると、もっといろんなチャンスが広がると思います。
*:1つのコンテンツを期間をずらして複数の媒体に登場させる戦略。
『Winny』(C)2023 映画「Winny」製作委員会
Q:今はNetflixも入ってきて、海外に目を向ける動きも少しずつ増えてきています。
金:その方向でもっと加速的に進むべきですね。国内だけではなくグローバル向けの企画製作ももっとやるべきだと思います。韓国はグローバルに視点を置いていて、国のバックアップも大きく、映画やK-POPもグローバル展開に成功している。それが一つのロールモデルになって、そこを目指す人が増える構造が出来た。日本もそうなっていくことを願います。そこでKDDIがどういう役割を果たせるのかはこれからの課題ですが、今回配給に関わったことは大きな参考になると思います。僕らは1から100まで全てをやっているわけではなく、協力してくれるパートナーと一緒にやって初めて成立するもの。より色んな会社とパートナーシップを組んで進めていきたい。全ての映画をヒットさせるのは難しいですが、その中から大きくヒットするものが生まれてくると、それをロールモデルに挑戦することが出来るんです。
Q:日本映画も動き方次第では良い未来が待っていそうですね。
金:もちろん、大きな可能性はあると思います。韓国が分かりやすい例ですよね。国内市場が小さいからグローバル化が進んだ。そこにしか道が無かったから成功したのだと思います。日本は国内にいろんな選択肢があるから海外に出にくい。極論ですが、今の市場が半分になれば海外に出るしかなくなる。DXによるビジネス変革に加え、グローバル戦略をどう考えていくが重要。映画の真ん中じゃない僕らみたいな会社がどんどん関わっていけると、新しいビジネスやクリエイターの支援なども含めて一緒に作っていけるのではないか。そう思っています。
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プロデューサー:金 山(Kim San)
KDDI 株式会社 パーソナル事業本部 マーケティング統括本部 auスマートパス推進部 エキスパート
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『Winny』
TOHOシネマズほか絶賛公開中
配給:KDDI/ナカチカ
企画:古橋智史 プロデューサー:伊藤主税 藤井宏二 金山
制作プロダクション:Libertas 制作協力:and pictures
製作:映画「Winny」製作委員会
監督・脚本:松本優作
(C)2023 映画「Winny」製作委員会