主演作『いとみち』(21/横浜聡子監督)で数々の賞に輝き、その演技が絶賛された駒井蓮。彼女が出演する最新作は、若き金子由里奈監督が手がける『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』。やさし過ぎるがゆえに傷つき居場所を失ってしまう。そんな大学生の麦戸美海子を、駒井は繊細なバランスで表現してみせた。自身と同じ等身大の大学生を駒井蓮はいかに演じたのか?話を伺った。
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』あらすじ
“恋愛を楽しめないの、僕だけ?” 京都のとある大学の「ぬいぐるみサークル(ぬいサー)」を舞台に、”男らしさ”“女らしさ”のノリが苦手な大学生・七森(細田佳央太)、七森と心を通わす麦戸(駒井蓮)、そして彼らを取り巻く人びとを描く。
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役と自分が似ているほど難しい
Q:金子監督からは最初にどんなお話がありましたか。
駒井:最初は脚本の感想を聞かれましたね。普段の生活では、やさしさや辛さはあまり表には出さないと思うのですが、この話の登場人物たちはそれらを素直に表現しています。また、私は(やさしさや辛さを)限られた友人には話して共有したりはしますが、「ぬいサー」ではより大人数に共有しつつも、決して外には出さずにサークルの中だけで共有し合っている。そこがすごくて驚きだったとお伝えしました。
加えて「普段、ぬいぐるみと関わっていますか?」とも聞かれました。私はぬいぐるみが大好きでたくさん持っていて、今でもたまに持ち歩くぐらい。私にとってぬいぐるみはそれくらい愛着のあるものです。そういう意味では、この話と通じる部分がたくさんありました。
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』(c)映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」
Q:駒井さん演じる麦戸は明るく元気な新入生でしたが、次第に不登校になってしまいます。その心の移ろいはどう捉えましたか。
駒井:麦戸ちゃんの持つ明るさはやさしさから来るものなので、元気な時も籠っている時もそこはあまり変わりません。彼女は周囲や社会の出来事にとても敏感で、普通の人以上に感じてしまう部分がある。それを受けて感情を変化させていくようにしました。
「ぬいサー」の人たちも皆やさしいのですが、でもそのやさしさも少しずつ違っている。そこで監督と一緒に「麦戸ちゃんならではのやさしさ」を考えていきました。麦戸ちゃんに共感する部分は多かったのですが、麦戸ちゃんと私は決してイコールではない。そこは繊細にやる必要があるなと思いました。
Q:個性の強い役よりも、自分に似た普通の若者を演じる方が難しそうですね。
駒井:そうですね。似ていれば似ているほど難しいです。でもどんな役だとしても、最初は自分と似ている部分を見つけるんです。役と自分との共通点を見つけて、そこから役に近づけていくのですが、似すぎてしまうとただの自分になってしまう。そうなった場合は逆に違うところを見つけていく。だからむしろ、全く理解できない役の方が演じやすいかもしれません。役が分かり過ぎると最初は楽しいのですが、演じているうちに本当の自分になってしまう感覚があります。
自分が演じている以上、自分は自分なのですが、物事に対する感じ方は人それぞれ違う。役自身の物事に対する感じ方を分かった上でそこからズレて来ると「あ、自分になってしまっている」と思います。役の感じ方に感覚が一致してくると、演じることが出来ている気がしますね。
Q:セリフは脚本通りでしたか?アドリブなどはあったのでしょうか?
駒井:ぬいぐるみに語りかけているシーンはアドリブが多いです。脚本にセリフは書かれていましたが、このシーンでは自分で思ったことも話して欲しいと、監督の希望がありました。私のセリフはアドリブが使われていることが多かったですね。鱈山さん(細川岳)のセリフもアドリブが多かったかもしれません。ぬいぐるみに話すシーンが多い人たちは、アドリブが多く使われていたと思います。