行定勲や押井守らと数々の作品を作り出してきた脚本家の伊藤ちひろ。彼女がオリジナル脚本を書き下ろし、監督も務めた作品が『サイド バイ サイド 隣にいる人』だ。つい最近、劇場映画初監督作品となる『ひとりぼっちじゃない』が公開されたばかりの伊藤監督だが、その独特の世界観は本作とも共通する部分が多いように思える。脚本家として多くの物語を手掛けてきた彼女は、なぜ監督として映画を作るようになったのか。話を伺った。
『サイド バイ サイド 隣にいる人』あらすじ
目の前に存在しない“誰かの想い”が見える青年・未山(坂口健太郎)。その不思議な力で身体の不調に悩む人や、トラウマを抱えた人を癒やし、周囲と寄り添いながら、恋人で看護師の詩織(市川実日子)とその娘・美々(磯村アメリ)と静かに日々を過ごしてきた。 そんな彼はある日、自らの”隣”に謎の男(浅香航大)が見え始める。これまで体感してきたものとは異質なその想いをたどり、遠く離れた東京に行きついた未山。その男は、未山に対して抱えていた特別な感情を明かし、更には元恋人・莉子(齋藤飛鳥)との間に起きた”ある事件”の顛末を語る。 未山は彼を介し、その事件以来一度も会うことがなかった莉子と再会。自らが“置き去りにしてきた過去”と向き合うことになる・・・。やがて紐解かれていく、未山の秘密。彼は一体、どこから来た何者なのかー?
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今までにない坂口健太郎を見たかった
Q:前作『ひとりぼっちじゃない』と一貫した世界観を感じました。本作の発想はどこにあったのでしょうか。
伊藤:この映画を坂口健太郎さんで作りたかったんです。以前脚本を担当した『ナラタージュ』(17 ※堀泉杏名義)でご一緒したのですが、それ以来ずっと気になる存在でした。最近は主演作も多くて、人間的にたくましく強い役が続いていましたが、今までにない坂口さんを見てみたかった。坂口さんの中には独特の感性があって“うねり”もある。そんな彼の特性を生かす話を考えている中、いちばんピンと来たのが寓話的なアプローチでした。
『サイド バイ サイド 隣にいる人』©2023『サイド バイ サイド』製作委員会
私はオスカー・ワイルドがすごく好きなのですが(この映画の中でも美々が絵本で読んでいます)、そういった自然の中で距離感や、人との繋がりの刹那的な輝きを描くときは、生々しい人間関係よりも寓話的なアプローチをとった方がいいのではないかと感じました。そうすると背景にあるものが余白として皆に伝わってそれぞれの解釈で生活や人生に繋げていってもらいやすいと思うんです。そんなことを考えながら書いていくと、どんどんこういう物語に転がっていった。ストーリーの柱を作るというよりも、書いていくうちにだんだん終着点が見えて来た感じです。キャラクターたちがそのまま展開を生んでいく感覚がありました。