パリの中⼼地、セーヌ川のきらめく⽔⾯に照らされた⽊造建築の船に、今朝もひとり、またひとりと橋を渡ってやってくる。ここ〈アダマン号〉はユニークなデイケアセンター。精神疾患のある⼈々を迎え⼊れ、創造的な活動を通じて社会と再びつながりを持てるようサポートしている。
そんなアダマン号に集まる人々を静かに優しく見つめたドキュメンタリー映画『アダマン号に乗って』。手掛けたのは『パリ・ルーヴル美術館の秘密』(90)『音のない世界で』(92)『ぼくの好きな先生』(02)などで知られる、現代ドキュメンタリーの名匠ニコラ・フィリベール監督だ。ベルリン国際映画祭最⾼賞に輝いた本作をフィリベール監督はどのように作り上げたのか。来日した監督に話を伺った。
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世界に向けて開かれた場所
Q:アダマン号に集まって来ている人たちにとって、そこは「行きたいと思う場所」になっているように感じました。
フィリベール:アダマン号という場所は人を受け入れ歓迎するところです。そこで患者さんたちは、病人ではなく一人の人間として受け入れられている。居場所や行動を制限されることもなく自由に動きまわることが出来て、一人でいられる場所もちゃんと確保されています。このシンプルなことが重要なんだと思います。また、船としての美しさが心地良さにもつながっていて、パリの中心にありながらもどこか違う場所に旅をしている感じもあり、木造でとても温かみがあるんです。あの場所はとてもオープンで、世界に向けて開かれているところが大きな魅力ですね。
『アダマン号に乗って』© TS Productions, France 3 Cinéma, Longride – 2022
Q:映画の冒頭でアダマン号の窓が開くシーンがありますが、とても象徴的でした。
フィリベール:あの窓はまるで深呼吸をして肺が開いていくような、そんな感じがしましたね。毎日窓を開けることによって光や風が入ってくる。そうやって世界に対して開けている場所なのだという、メタファーにもなっています。
Q:ケアを受ける人、看護師、スタッフ、医者など、誰がその人なのか見ていてもはっきりとは分かりません。実際にはどうだったのでしょうか。
フィリベール:それは僕にとっても重要なことでした。撮影の際も患者とスタッフなどのカテゴリーで区別しないようにしていました。あの場所にいる人たちを判別することはそもそも難しいのです。アダマン号では患者とスタッフがいつも共同で作業をしていて、建物内のカフェも患者とスタッフが共同で運営していますし、ミーティングやワークショップも一緒に行い、誰もが順番に司会を担当して盛り上げている。本当に平等な空間で、皆が縦ではなく横でつながっているんです。
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