巨匠・笠松則道が撮る理由
Q:撮影は大ベテランの笠松則道さんが担当されています。さすがの圧倒的な画のクオリティですが、笠松さんにお願いした理由を教えてください。
金川:笠松さんが撮る映画が好きで、CMでも何本かご一緒したことがありました。この話が来た瞬間にこれは笠松さんだなと。CMと映画では明らかに現場が違うので、映画に慣れているカメラマンと一緒にやりたかった。映画撮影の進め方を体験したくて笠松さんにお願いしました。
また、笠松さんは寄りの画がすごく強くて惹きつけるものがあるんです。笠松さんが撮られた『すばらしき世界』(20)では、役所広司さんの寄りがすごく魅力的でした。笠松さんに撮ってもらえるのであれば、冒頭は寄りから始めようと決めていました。その冒頭のカットは、映画館のスクリーンを考えるともう少し引いた方がいいのではと笠松さんに言われたのですが、観た人が「うわっ」となるぐらいのデカさにしてガッと“掴み”たかった。「もっと前に、もっと前に」と、レンズが人物の目の前に来るくらいの感じで撮ってもらいました。
『冬子の夏』©2022『冬子の夏』製作委員会
Q:CMでは監督が画コンテを描きそれに準じてアングルが決まっていきますが、映画の場合は撮影監督が主導してアングルが決まっていくと聞きます。今回はどのように進められたのでしょうか。
金川:おっしゃる通り、映画はカメラマンがアングルをきると聞いていましたが、僕は自分できりたかった。また、撮影時間が短かったので様々なアングルを撮る時間もなく、かといって普通に撮っても画が弱くなってしまう。そこでロケハンのときに僕の知り合いの劇団(劇団ウルトラマンション)の俳優を呼んで、笠松さんに全カットのアングルをきってもらい、僕の意見も入れながら一通り撮影したんです。それを編集してビデオコンテにし、そこから全カットを切り出して、本番ではその通りに撮っていきました。笠松さんに対してアングルを決めるなんて大それた話なのですが、自分の撮りたいものをはっきりさせる意味でも、その手順を踏ませていただきました。
Q:では本番の編集でもそのビデオコンテ通りつなげたのでしょうか。
金川:ビデオコンテは15分弱の尺でしたが、完成した映画は25分になっています。本番で実際の俳優を撮っていると、芝居がいいので間をしっかり取って見せたくなる。最初につないだときは30分くらいになったのですが、そこから徐々にシェイプして今の尺(20分)になった感じです。
Q:笠松さんがこれまで撮影された作品の画は重厚な印象がありますが、今回は若さやポップさも感じました。その辺はやはり金川監督の演出あってのものでしょうか。
金川:邦画的な王道の画に対して、それをつなぐ編集が今までの邦画とはちょっと違うというのが、見やすいのではないかと思っていました。もし若手カメラマンが撮った今っぽいライティングの画で、今回の編集でつなげると、観ている人は多分ちょっと疲れちゃう。それで笠松さんにお願いした部分もありますね。