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『ソフト/クワイエット』ベス・デ・アラウージョ監督 教育の衰退が生み出す問題とは【Director’s Interview Vol.314】
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ちゃんとした教育が施されないアメリカ
Q:アメリカでの観客の反響はいかがでしたか。
アラウージョ:反応は二極化しているようです。居心地の悪さを感じ、「(この感覚は)なぜなんだ?」と自問する方と、(居心地の悪さに)すぐさま逃げ出す方の2つに分かれているようでした。
Q:主人公のエミリーらと同じ思想の人たちは、この映画を観てどういう反応をしているのでしょうか。
アラウージョ:私はSNSをやっていないので、そういった人たちの反応は分かりませんが、とある白人の女性から「あなたは人種差別主義者だ」とコメントをもらったことがあります。そういった人たちは自分たちの都合で勝手に物語を解釈するので、私はそこには興味はありませんね。
『ソフト/クワイエット』© 2022 BLUMHOUSE PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.
Q:世の中で起きている社会問題をエンターテイメントで訴えることは、これまでも今も多々行われてきましたが、なかなか問題が改善されることはありません。事態はむしろ悪くなっている。なぜ人類は同じ過ちを繰り返してしまうと思いますか。
アラウージョ:その問題については私も日々考えています。アメリカの場合は南北戦争で40万人以上の男性が戦死し*、兵隊不足に陥った結果、なし崩し的に戦争が終結しました。つまり(南軍が)奴隷制度廃止に同意して戦争が終わったわけではないのです。南部に残った白人女性たちは、戦地に赴くには若すぎた男の子たちに、黒人差別の思想を伝承し続けました。それが続いてきたのが今のアメリカなのでしょう。
ちゃんとした教育が施されないのはとても不健全なことで、今のアメリカでは教育に使われる公的なお金が年々減っていて、基本的な教養が無い人たちが増えています。自分自身で物事を考える力を養えず、歴史の真実についても知ることもない。もし過去の誤ちを学べる機会があれば、こういった差別は続かないでしょう。でも残念ながらそうではない。また、ホロコーストは存在しなかったと事実を歪曲して公言しても、それはアメリカでは違法ではない。法律の面でもやらなければならないことがたくさんありますね。
*)南北戦争での死者数は50万人とも60万人とも言われており諸説あります。
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監督・脚本:ベス・デ・アラウージョ
サンフランシスコ生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で社会学の学士号を取得し、American Film Institute では MFA を取得した。いくつかの短編作品を制作後、本作で長編デビューを果たしSXSW2023でプレミア上映され審査員特別賞にノミネートされるなど高い評価を得た。特に批評家から絶賛されている。2017年フィルムメイカー誌が選ぶ「インディペンデント映画界の新顔25人」に選出。母親は中国系アメリカ人で、父親はブラジル出身。ブラジルと米国の2つの国籍を有している。『ドント・ウォーリー・ダーリン』(22)、『エターナルズ』(21)に出演したジェンマ・チャンを主演に迎えた新作『Josephine(原題)』を準備中である。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『ソフト/クワイエット』
5月19日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
配給:アルバトロス・フィルム
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