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『苦い涙』フランソワ・オゾン監督 敬愛するファスビンダーへの挑戦【Director’s Interview Vol.318】

© 2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION ©Carole BETHUEL_Foz

『苦い涙』フランソワ・オゾン監督 敬愛するファスビンダーへの挑戦【Director’s Interview Vol.318】

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作品ごとにまったく異なる世界を見せてくれる、フランス映画界の鬼才、フランソワ・オゾン。その彼が敬愛するライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの傑作、『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(72)をリメイクしたとあれば、興味を引かれずにはいられない。しかもオリジナルではファッション界に身を置くふたりのヒロインという設定を、男同士に置き換え、映画監督と彼の愛人となる若い俳優に変えて、サドマゾ、欲望と支配と嫉妬といったテーマに切り込んだ。映像的にも冒険を試みたアーティスティックな内容は、さすがオゾンと唸らされる。本作に込めた思いについて語ってもらった。


『苦い涙』あらすじ

著名な映画監督ピーター・フォン・カント(ドゥニ・メノーシェ)は、恋人と別れて激しく落ち込んでいた。助手のカール(ステファン・クレポン)をしもべのように扱いながら、事務所も兼ねたアパルトマンで暮らしている。ある日、3年ぶりに親友で大女優のシドニー(イザベル・アジャーニ)が青年アミール(ハリル・ガルビア)を連れてやって来る。艶やかな美しさのアミールに、一目で恋に落ちるピーター。彼はアミールに才能を見出し、自分のアパルトマンに住まわせ、映画の世界で活躍できるように手助けするが…。


Index


傑作を自分なりに脚色すること



Q:あなたは2000年に『焼け石に水』で、敬愛するファスビンダーの未発表の戯曲を映画化しました。その後20年以上経ち、なぜいま再びファスビンダーを、それももっとも知られた作品の1つである、『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』のリメイクを作りたいと思ったのですか?


オゾン:アイデアは長年考えていたものなんです。ファスビンダーの作品のことはよく知っていたし、なかでもこれはある意味彼のセルフポートレート、彼自身のラブストーリーを反映したものとして興味を引かれていました。パンデミックによるロックダウンの最中に、多くの監督と同じように僕も、「以前と同じようにこれからも映画を撮ることができるだろうか。それはとても困難だろう」と考えていた。それでロックダウン中に、密室劇で登場人物も少ない本作の企画に真剣に取り組んだのです。


でも正直、怖さもありました。傑作をリメイクするのはいつだって恐ろしいものですよ。でもドイツの著名な演出家のトーマス・オスターマイアーと話しをしたとき、彼はシェイクスピアやチェーホフなどの古典をたくさん取り上げて現代的な演出をしているのですが、「自分なりの脚色をするのを恐れてはだめだ」と言われたのです。それで決意が固まりました。登場人物の性を変えて、舞台となる街も変えた。演出家が古典の戯曲に新しいビジョンをもたらすように、自分もフランス人的な視点を持って脚色しようと思った。リスキーなのは覚悟していました。



『苦い涙』© 2022 FOZ - France 2 CINEMA - PLAYTIME PRODUCTION ©Carole BETHUEL_Foz


Q:ご自身にとってファスビンダーは偶像だからこそ、挑戦するという思いだったのでしょうか。


オゾン:それは意味のあることですよね? 僕はファスビンダーに多くの愛情を持っていますが、彼の持つ怪物性も意識しています。本作の中でシドニーはピーターに、「あなたは映画のなかで自分の弱い面をさらけ出す。でも現実のあなたには強い面がある」ということを言います。それがピーターというキャラクターのキーです。


それに監督なら、誰でもある程度ピーターに共感すると思います。監督はすべてをコントロールしたいものですから。ある世界を創造するのだから権力を必要とするし、人を操りたいと思うのは自然です。でもその一方でそこに苦しみも生まれる。ピーターはもう愛されていないと悟りながらも、監督として相手を所有しようとする、でも現実には無理だからそれによって彼は苦しむ。本作のなかでアミールが彼に、「苦しむのが好きなのか?」と尋ねると、彼は「いや、ただ君に愛して欲しいだけだ」と答えます。映画における支配の関係は、白と黒ではっきり割り切れるものではないと思います。




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