ボクシング映画の傑作が数多ある中、新たなボクシング映画を作ることは相当なプレッシャーであろう。原作:沢木耕太郎、監督:瀬々敬久、主演:佐藤浩市&横浜流星で挑んだ『春に散る』は、そんなプレッシャーを吹き飛ばす“本気”のボクシング映画となっていた。展開するドラマはもちろんのこと、時間を割いてきっちり描いたボクシングシーンは圧巻の一言。横浜流星と窪田正孝が闘うクライマックスには思わず息を呑んでしまう。
瀬々敬久監督はいかにしてこのボクシング映画を作り上げたのか? 話を伺った。
『春に散る』あらすじ
40年ぶりに故郷の地を踏んだ、元ボクサーの広岡仁一(佐藤浩市)。引退を決めたアメリカで事業を興し成功を収めたが、不完全燃焼の心を抱えて突然帰国したのだ。かつて所属したジムを訪れ、かつて広岡に恋心を抱き、今は亡き父から会長の座を継いだ令子(山口智子)に挨拶した広岡は、今はすっかり落ちぶれたという二人の仲間に会いに行く。そんな広岡の前に不公平な判定負けに怒り、一度はボクシングをやめた黒木翔吾(横浜流星)が現れ、広岡の指導を受けたいと懇願する。そこへ広岡の姪の佳菜子(橋本環奈)も加わり不思議な共同生活が始まった。やがて翔吾をチャンピオンにするという広岡の情熱は、翔吾はもちろん一度は夢を諦めた周りの人々を巻き込んでいく。果たして、それぞれが命をかけて始めた新たな人生の行方は――?
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ボクシング映画は傑作揃い
Q:既に映画化されているようなイメージがある沢木耕太郎作品ですが、本作が初の映画化というのが意外でした。依頼が来た時の印象はいかがでしたか?
瀬々:10代からファンだったので、一も二もなく引き受けました。一番大きかったのは「テロルの決算」(78)というノンフィクション。そのあとの「一瞬の夏」(81)というボクシングの本もよくて、その二つは自分の中で大きかったですね。
『春に散る』©2023映画『春に散る』製作委員会
Q:本作の根幹をなす骨太なドラマは瀬々監督の得意とするところですが、ボクシング映画としてはどう向き合いましたか?
瀬々:格闘技は好きで、プロレスやPRIDEなどもよく観に行っていました。そういう意味では親和性はあったかもしれません(笑)。ただ、ボクシング映画は傑作揃いで、最近の邦画でも『百円の恋』(14)『あゝ、荒野』(17)『ケイコ 目を澄ませて』(22)など、良い映画がいっぱいある。果たしてどうなることかと、ある意味プレッシャーでしたね。