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『福田村事件』森達也監督 生粋のドキュメンタリストが作る劇映画が、日本の暗部をえぐりだす【Director’s Interview Vol.349】

©「福田村事件」プロジェクト 2023

『福田村事件』森達也監督 生粋のドキュメンタリストが作る劇映画が、日本の暗部をえぐりだす【Director’s Interview Vol.349】

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なぜ朝鮮人虐殺は描かれて来なかった?



Q:関東大震災の朝鮮人虐殺というテーマは、日本映画でほとんど描かれてきませんでした。この題材が取り上げられてこなかったのは何故だとお考えですか?


森:朝鮮人虐殺だけでなく、国としての過ちはたくさんあると思うのですが、それらはほぼ劇映画になっていないですよね。推測だけど理由の一つは、そうしたテーマでは興行的に当たらないと映画会社が判断してきたから。抗議も面倒だとの意識もあったのかな。だから映画会社からは協力してもらえなかった。でも自主映画でやろうにも、朝鮮人虐殺や南京虐殺はかなり製作費がかかる。インディーズで出来る規模じゃないのでどうしようもない。そんな状況だったと思います。


Q:先の大戦をテーマにした日本映画でも、日本人がいかに悲惨な目に遭ったかを描く作品は多くありますが、日本人を加害者として描くものが圧倒的に少ないです。なぜ、日本人の加害性はドラマや映画で忌避されるのでしょうか?


森:映画だけではない。メディアも教育も、さらに国民全体の空気も含めてそうなっています。例えば戦争に関するメモリアルって、原爆が投下された8月6日と9日、終戦の15日です。つまり8月ジャーナリズム。あとは東京大空襲や沖縄戦。自分たちが被害を受けたことをメモリアルにしている。同じ敗戦国のドイツは逆です。自分たちのメモリアルは1月27日と30日だと、ドイツに行ったとき言われました。「それは何の日?」って聞いたら、30日はヒトラーが組閣した日で27日はアウシュビッツが解放された日。そう説明されて、ちょっと衝撃を受けました。



『福田村事件』©「福田村事件」プロジェクト 2023


日本は終戦が起点だけど、ドイツは自分たちがヒトラーを支持した日、戦争の時代とファシズム政権が始まった日を起点にしている。そしてもうひとつのメモリアルは、自分たちの被害ではなくて加害。だから戦後ずっと、「なぜ自分たちはナチスを支持したのか」、「なぜ自分たちはユダヤ人を虐殺したのか」と考え続けている。でも日本では「なぜ自分たちはこんなひどい目にあったのか」との思いばかりが前景化し、戦後の記憶は復興がベースとなる。その枠組みに教育も政治もメディアも戦後70年以上はまってきた。加害の記憶が共有されていない。だから朝鮮人虐殺とか南京虐殺の話になると、「日本人がそんなケダモノのはずがないだろう!」となる。ホロコーストに加担したナチスの幹部はみなケダモノだったのか。ハンナ・アレントが「凡庸な悪」と形容したアドルフ・アイヒマンが、決してそうではないことを示しています。ウクライナで市民を殺戮するロシアの兵士も、郷里に帰れば良き夫や息子であるはずです。人は環境によってケダモノにもなるし紳士淑女にもなる。その認識を日本の多くの人は持てずにいる。だから負の歴史を否定したくなる。特に最近はその傾向が強くなっています。





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