©「福田村事件」プロジェクト 2023
『福田村事件』森達也監督 生粋のドキュメンタリストが作る劇映画が、日本の暗部をえぐりだす【Director’s Interview Vol.349】
とにかくこれはエンタメ
Q:今は日本人の加害性を描く映画を作るだけで、「非国民だ」などと言われることもあります。それはここ20年くらいの傾向ではないかと思えます。
森:大きなターニングポイントは、オウム真理教による地下鉄サリン事件です。不安と恐怖を刺激された日本社会は、事件が起きた1995年以降、セキュリティ意識を燃料にしながら集団化を加速させてきた。
Q:特にここ20年でメディア全体がクレームに弱くなったと感じます。テレビ報道などでは、たった1件のクレームに過敏に反応することもあると聞きます。
森:コンプライアンスとガバナンス、そしてリスクヘッジ。こうした言葉の流通はこの20年です。でも組織メディアは、会社であると同時にジャーナリズム機関でもある。普通の会社ならば戦場への出張などありえないけれど、メディアならばそのリスクを回避できない。でもセキュリティ意識が突出したら、ジャーナリズムが後退してしまう。負の歴史を扱わない傾向と同様に、現在のジャニーズや統一教会の問題にもこの要素はある。
Q:そうした意味でも今回の映画化は意義あることだと思いますが、誤解を恐れずに言えば、エンターテインメントとして極上の仕上がりになっているので、そうした意味でもお客さんには観てほしいなと思います。
森:僕も色んな所でそう言っています。とにかくこれはエンタメですからって。
『福田村事件』を今すぐ予約する↓
監督:森達也
広島県呉市生まれ。95年の地下鉄サリン事件発生後、オウム真理教広報副部長であった荒木浩と他のオウム信者たちを被写体とするテレビ・ドキュメンタリーの撮影を始めるが、所属する制作会社から契約解除を通告される。最終的に作品は『A』のタイトルで98年に劇場公開され、さらにベルリン国際映画祭など多数の海外映画祭に招待されて世界的に大きな話題となる。99年にはテレビ・ドキュメンタリー「放送禁止歌」を発表。2001年には映画『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。映画作品は他に『311』(11)、『FAKE』(16)、『i~新聞記者ドキュメント』(19)などがある。2011年「A3」(集英社インターナショナル)が講談社ノンフィクション賞を受賞。他の著作に、「放送禁止歌」(光文社智恵の森文庫)、「職業欄はエスパー」「いのちの食べかた」「死刑」「クォン・デ~もう一人のラストエンぺラー」(角川文庫)、長編小説作品「チャンキ」(論創社)、「すべての戦争は自衛から始まる」(講談社文庫)、「U相模原に現れた世界の憂鬱な断面(講談社現代新書)」などがある。近著は「千代田区一番一号のラビリンス」(現代書館)。
取材・文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)
『福田村事件』
9月1日(金)よりテアトル新宿、ユーロスペースほか全国公開
配給:太秦
©「福田村事件」プロジェクト 2023