良質なエンターテインメント作品をコンスタントに作り続ける原田眞人。その最新作は原田自身が映画化を熱望したクライムサスペンスだ。『BAD LANDS バッド・ランズ』は、特殊詐欺グループと警察の攻防という犯罪映画としての顔と、安藤サクラ、山田涼介演じる姉弟の関係性を描く家族ドラマとしての要素を絶妙にブレンド。独特にして良質な余韻を残すことに成功している。
映画化権を取得する前から脚本を書き始めるほど原作に入れ込んだ原田眞人は、本作の世界観をいかにして構築したのか。原田監督に話を伺った。
『BAD LANDS バッド・ランズ』あらすじ
<持たざる者>が<持つ者>から生きる糧を掠め取り生き延びてきたこの地で、特殊詐欺に加担するネリと弟・ジョー。二人はある夜、思いがけず“億を超える大金”を手にしてしまう。金を引き出す…ただそれだけだったはずの2人に迫る様々な巨悪。 果たして、ネリとジョーはこの<危険な地>から逃れられるのか。何が嘘で、真実か。 誰が敵で、味方か。事態は、予想もつかない領域へと加速していく——。
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原作の主人公とは性別を逆転
Q:前作『ヘルドッグス』同様、今回も血沸き肉躍るエンターテインメント作品です。安藤サクラさんと山田涼介さんのバディムービーとしても秀逸ですね。
原田:とにかく二人の相性がすごく良くて、僕も現場で楽しかったです。
Q:小説「勁草」の映画化は原田監督の希望だったそうですね。原作小説では主人公が男性ですが、映画では女性のネリ(安藤サクラ)に変更、さらに相棒のジョー(山田涼介)もネリの弟という設定になっています。この狙いをお聞かせください。
原田:原作は特殊詐欺のシステムをものすごく入念に描いているのがとても面白い作品です。読み進めていくうちに気づいたのは、イングマール・ベルイマンが犯罪映画を撮るとしたら、こういう題材だろうと。さらにベルイマンなら近親相姦の要素を入れ込むだろうから、主人公は女性の方がいい。読み終わった時には女性を主人公にして映画化する、と心に決めていました。
『BAD LANDS バッド・ランズ』©2023「BAD LANDS」製作委員会
Q:直感的にそう判断され、すぐに脚本化されたのでしょうか。
原田:「勁草」を読んで4〜5年くらいで脚本は書きあがっていました。でも実はその時点で知り合いのプロデューサーに原作権を押さえられていたんです。だからその人に「いい加減に映画化諦めなよ」と言ったりして、ずっとチャンスを待っていたわけです(笑)。
Q:主人公のネリという名前はドストエフスキーの小説「虐げられた人びと」から取られたとお聞きしました。
原田:大きく影響を受けたのは「虐げられた人びと」を『赤ひげ』(65)に流用した黒澤明監督の世界観ですね。『赤ひげ』を最初に観た時は知らなかったのですが、後半の展開は実は「虐げられた人びと」の影響だということを知りました。それで興味を持って小説を読み、今回はその中にあるフレーズをネリのセリフに引用したりしています。僕は決してドストエフスキーを読み込んできた人間ではないですが、映画を作るために「虐げられた人びと」を読み込んで世界観が広がりました。そこは黒澤明監督にとても感謝しています。