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『花腐し』荒井晴彦監督 これはR40映画です【Director’s Interview Vol.370】

『花腐し』荒井晴彦監督 これはR40映画です【Director’s Interview Vol.370】

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分からなくたっていいじゃないか



Q:綾野剛さん、柄本佑さん、さとうほなみさん、3人のキャスティングのポイントをおしえてください。


荒井:そこ難しいなぁ(笑)。最初は、栩谷は50代か60代で考えていたんですよ。時制も今で。でも、裸になってくれそうな人がいないし、若い時との差が大きすぎてしまう。で、40代で10年前の設定にしようということになって、綾野剛という名前が出てきた。『そこのみにて光輝く』の風情がいいなと思っていて。でも、とかくの噂があって、不安だったので、佑にいてもらいたいなと。でも現場に入ったら、熱心で真面目なんですよ。それは(松田)優作とかを見ていても同じで、まぁ優作も暴力とかよく言われたけど、「自分がこれだけやってるのに、なんでお前ら同じレベルについて来れないんだ?」っていうところから手が出ちゃうんですよね。ショーケンなんかもそういうところがあった。綾野と佑のツーショットというのは絶妙なんじゃないですかね。芝居の質も違うし、お互いに意識してやっているなって(笑)。そういうのがよくわかる。


Q:あの二人はコントラストがある一方で、同じ感じもする。そこが絶妙でした。


荒井:男二人が喋っているだけなんですけどね(笑)。



『花腐し』©2023「花腐し」製作委員会


Q:二人が出会い過去と現実が交錯していく構成も面白かったです。冒頭、雨が半分だけ降っているところに入っていくシーンは、脚本にも書かれていたのですか。


荒井:最初から書いていました。雨の中に入っていくことで違う世界に入っていくようにして、そこで起きるのは本当のことなのか、あるいは死者の世界なのか、そういう設定ですね。そこら辺が分かりにくいっていう人もいるけど、まぁそれぞれ思うようなことで良いんじゃない。“夢落ち”なのかとか、あのパソコンは誰が書いたのかとか、いろいろ聞かれますけどね。


現さんは言わなかったけど、「これは客には分からないんじゃないか」って言ってくるプロデューサーは多いと思いますね。柄本明が湯布院映画祭のシンポジウムで言っていましたよ。「どうしてそんなに分かりたがるんだ、分からなくたっていいじゃないか」ってね。あれは名言だったね(笑)。今の観客はそういうところがあり過ぎるんじゃないですかね。俺たちの若い頃は分からない映画が多かったですよ。イングマール・ベルイマンなんて全然分かんなくて(笑)。映画雑誌の映画評を読んで再度見に行ったけど、それでもまだ分かんない。それで結局「神の問題は、日本人には分からんなぁ」ってね(笑)。


Q:確かに描写としての説明はありませんが、“分からない”といった違和感は無かったです。


荒井:俺はリアリズム派というかリアルベースでしかものを考えないから、ファンタジーという言葉が嫌いでね。ファンタジーっていうのは、シビアな現実から逃げる夢物語にしか思えない。だからこれをファンタジーと言われるとちょっと嫌だなと。なんかリアルじゃ無いとすぐファンタジーって言うんですよね。原作では、祥子が階段を上がって行って、「その後を追おうとして栩谷は今下りてきたばかりの階段の最初の段にもう一度足を掛けた」で終わるから。あ、ここなんだなと。幽霊映画を作るしかないんだなと思っていた。だからファンタジーと言われるよりは幽霊映画と言われた方が良いかな。


Q:ラストのカラオケも驚きもあり良かったです。


荒井:ああいうのは自分が監督だから出来ることですよね。デュエットは、現場で撮っていて途中で思いついたんです。綾野に「歌う?」って聞いたら「あ、はい」って言うから撮ったんですよ。いい感じだなぁって、撮っていてうるうるしました。でもあの歌は6分もあるんですよ。映画の中盤の、しかも回想シーンであの6分を使うわけにはいかないでしょ。でも、もったいないのでエンドクレジットで使ったんです。


Q:歌っている祥子を見つめている桑山(吉岡睦雄)は、栩谷が歌い出すとスッと目をそらすんですよね。細かいなぁと。


荒井:それでね、桑山が祥子のために書いたシナリオの上に栩谷が灰皿を置くんですよ。それを桑山はどかしているんです。俺は何も言わないけど、あの人たち自然にそういうことをやっていますね。




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