助監督時代は色々工夫していました
Q:脚本に書かれていないディテールの部分、例えばスナックで流れている音楽も普通だったら(予算の問題から)フリー音源を流すところを、実際に歌った歌を流すなどして、工夫してこだわられたそうですね。
荒井:韓国スナックでは、バロックをカヤグムという韓国の琴でやろうと思って、カヤグム奏者を探してもらって、ダビングのスタジオで録りました。ゴールデン街設定の店の音楽は、CDの曲を使うと高いんで、山崎ハコに初めて歌う曲を歌ってもらいました。
『福田村事件』(23)でね、鈴木慶一さんの家に行って作業したのですが、コンピューターなんですよね、ちょっと驚きました。「虐殺シーンになんか足りないな」って録音部が言うんで、「村祭りのような虐殺だから、太鼓の音を入れないか?」と提案した。そうしたら佐伯俊道(脚本)が「新藤兼人さんの『鬼婆』(64)で林光が和太鼓を使ってる」と。「あ、いいじゃない」っていうことでやろうとしたら、鈴木慶一のところに和太鼓のソフトが無いんですよ。「これ和太鼓じゃないよね?」って言ったら、韓国のなんとかって楽器だと。「さすがにそれはマズイんじゃないですか。朝鮮人が殺される映画やってるのに」ってね。俺は、4作とも小さなスタジオやライブハウスで音楽を録ってきたから、贅沢だったのかな。
『花腐し』©2023「花腐し」製作委員会
Q:自分が書いた文字を映像や音に落とし込んでいく作業はいかがですか。
荒井:仕上げの編集やダビングはすごく好きですよ。自分で撮って来た範囲でしか動かせないけれど、その中でも「こうやった方がシナリオよりいいのかな?」といろいろ出てくるからね。
Q:編集では脚本から変える部分も出てきますか。
荒井:基本的に流れは同じですけどね。ただ尺を詰めるのに、ちょっと無理して切ったり、つないだりもします。元々はピンク映画の助監督だったので、その時は自分で色々やらなきゃいけなかったし、衣装だって衣装部とか無いからね。彼女のをちょっと借りて来たりとか、ロケセットで自分の家を使ったりとかしていました。「邪魔なの監督だけだな」みたいに思っていましたから(笑)。自分でホン書いて自分で段取りをしていたから「なんだ、監督いらないな」って。ピンク映画だからダビングでは著作権を無視して勝手に音源を使っていましたから(笑)。その代わりビデオにはならなかったけどね。