『火口のふたり』から『花腐し』へ
Q:本作は足立正生さんが監督される予定もあったとか。
荒井:2004年の湯布院映画祭のときに、廣木隆一と竹中直人が「花腐し」をやりたがっていたんです。竹中が自分が監督できなかったら、「役者でもいいから廣木組で出してくれ」とか言っていた。「そんなに面白い原作なのかな」と思って気にはしていたんですけどね。そのうち読んでみたら、非常に観念的な小説で「あいつらどこを面白がったんだろう? どういう風にするつもりだったんだ?」って(笑)。それで足立さんならこなせるかなぁと思ってプロット書かせたら、小説通りに書いてきたんでクビにしました(笑)。ちょっとこっちが勘違いをしちゃったかなと。足立正生はシュールレアリスムの人だったんだけど、あっちに行って帰ってきてから変わっちゃったかな。『REVOLUTION+1』(21)みたいな映画は撮るんでしょうけどね。
まぁそれで、そのとき松浦さんと会って「原作ください」みたいなことは伝えていたので、その流れで今度は斎藤久志でやろうかなと。それで中野太に脚本を書かせたのが2013年くらいかな。2013年の10月に初稿が上がって、それで斎藤が読んだんです。「中野太版の『新宿乱れ街 いくまで待って』(77)だね」って言っていたけど、結局斎藤じゃ金が集まらなくて、そのシナリオはそのままだったんですよ。
Q:ご自身で監督をやろうと思ったのは、どのタイミングだったのですか?
荒井:『火口のふたり』の公開が終わってからですね。現場的にも割合うまくいったので「もう1本いけるかな」みたいな感じでした。その頃かな、現さん(佐藤現プロデューサー)に連絡したのは。それでシナリオを送ったら「やりましょう」って言ってくれたから会いに行った。そのときのことはよく覚えていますよ。雨の日でね。御茶ノ水の病院から東映ビデオに行って、下の喫茶店で話したんです。でもあれからだいぶ時間がかかったね。年が変わったらコロナ禍にもなったし、濃厚接触シーンばっかりだから「やっぱりダメかなぁ」って(笑)。
『花腐し』©2023「花腐し」製作委員会
Q:『火口のふたり』があったからこそ、本作の製作が可能になったということはありますか。
荒井:『火口のふたり』のキネ旬ベストワンが大きいと思いますね。『火口のふたり』のときに写真家の野村佐紀子が現場でずっとスナップを撮っていたんだけど、写真にうつっているスタッフは皆笑っているんですよ。そんな楽しい現場だから「もう一回やるか」ってね。これもそうですよ。インティマシーコーディネーターの西山さんも楽しいって言ってくれて、「また呼んでください」って(笑)。最初、俺とか川上(撮影:川上皓市)は「インティマシーコーディネーターとかいらないよ」って言っていたんだけど、現さんに「監督とキャストを守るためだ」って言われてね。
最初は(西山さんとは)別の人と会って話をしたんですけど、その人は「前貼りはマストだ」って言うんです。川上が「前貼りは映るとNGだけどヘアーは映っても使えるんだ」と言うと、「ハリウッドだと(この人すぐハリウッドって言うんです)、前貼りの上に偽の毛をつけるんだ」と、そこまでやるんだと言うんです(笑)。それで俺が「大島渚という人は『愛のコリーダ』(76)で映画の表現を拡大したが、あなたの話だと、これからそういう映画は作れないってことですね」と言ったら、「そうです」と。「こんな人とやりたくねえなぁ」と思っていたら、向こうから「あの人たちとは出来ません」と言って来た(笑)。インティマシーコーディネーターって日本には二人しかいないんですよ。結果、その人じゃない西山さんで良かったですけどね。サバサバした人でよかったです。