R-18は画角の問題
Q:荒井監督とは初タッグでしたが、いかがでしたか?
佐藤:荒井さんはとっつきやすい人ではないと思います。多分そういうイメージでも見られるし、ちょっと怖がられることもある(笑)。一言一句セリフを変えさせないとか、そういう嘘か本当かわからない伝説みたいなことも聞くし、いろいろ大変な人だという先入観を持たれがちですよね。ただ僕は、「ここはこうしませんか?」という相談をしながら何度か改稿のやりとりをしましたが、「それはあるな」とか「うん、それでもいいな」とか、面白いと思ってくれたことはどんどん柔軟に取り入れてくださいました。やりづらさを感じたことは全く無かったですね。もちろんすごくリスペクトしていますし、敬意を持って接してはいますが、とてもフランクにやり取りさせていだいています。
荒井さんはぶっきらぼうでシャイなので、誤解されることがあるのかもしれませんが、若いスタッフにすごく優しいんです。映画学校の生徒が書いた脚本を持ってきて、「これ面白いから、ちょっと読んでみてよ」と言われたこともありますし、とても面倒見がいい。懐に入るまではとっつきにくいかもしれませんが、ちゃんと向き合って話をしていけば、ものすごく柔軟で懐の深い方ですね。
Q:強い作家性がコアにありつつも、観客に向けたリクエストも受け入れられたということでしょうか。
佐藤:「こうすれば観客が喜ぶのでは」という考え方で直しはしていません。荒井さんは自分が作りたいものを作るというスタンスで、そこは絶対に曲げない。荒井さんの作りたいものと、この作品を通して訴えたいテーマを皆で共有しながら、それを具現化する作業を進めていきました。
『花腐し』©2023「花腐し」製作委員会
Q:R-18指定は製作開始の時点で決まっていたのでしょうか?
佐藤:いえ、バイオレンスではなく濡れ場ですから、やりようによってはR-15になると思っていました。R-15とR-18の違いは、多くの場合、描写ではなく画角なんです。腰が合わさっているところが映ったらダメだとか、そういう即物的なことに尽きる。例えば、男女が全裸で愛し合っているところをフルショットで引いて撮ったらR-18になっちゃう。合意の上で普通に性行為をしているシーンであっても、画角の問題だけでそうなるんです。だから性行為絡みでRがつくものに関しては、撮り方次第で如何様にでもなるということですね。
栩谷と祥子がホテルで朝のシャワーを浴びるシーンは、綺麗に光が差していて、引きで撮った方が美しいわけです。そういうところに制限をかけるべきかどうか。R-15にした方が間口は広がるでしょうが、この映画に関しては荒井さんの集大成でもあり、川上皓市さんと新家子美穂さんのカメラマン二人をはじめ、日本映画界を代表するような作家性の強いスタッフたちが集まって撮る作品。果たしてそこに制限をかけてまでR-15にする必要があるのか。最終的にはそこで判断をしました。