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独自の価値観に裏打ちされた深田ワールドに迫る。深田晃司監督『海を駆ける』 ~前編~【Director’s Interview Vol.3.1】

独自の価値観に裏打ちされた深田ワールドに迫る。深田晃司監督『海を駆ける』 ~前編~【Director’s Interview Vol.3.1】

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あえて“気づかない振り”をすることで風通しをよくしたい



Q:『 さようなら』(2015)でも『 歓待』(2010)でも感じられることですが、監督には国境とか国籍みたいな枠組みをナシにしてしまいたいという欲求があるように思います。逆に日本映画は昔から、「湿度」と表現されるように、土着の文化や血族への帰属意識を描いていることが多いですよね。


深田:それはありますね。最近の映画でも、家族制度っていうものに対して現代的に批判的に距離を置きながら、でも最終的には家族の絆を肯定的に謳うっていうパターンがスタンダードというか、いまだに一番多いですよね。多分、自分のやり口というか、向き合い方は、あえて気づかない振りをすることだと思っています。例えば、こういうものが正しい家族だよねっていう価値観に、最初から気づかない振りをする。男性らしさ、女性らしさといったものも、自分が脚本を書く時にはなるべく考えないようにしています。そうした方が、女性から「女性のことをわかってる」なんて言ってもらえたり、意外なことも起きますし(笑)。言語の違いとか国籍も、あえて空気を読めない振りをして、前提としてのステレオタイプみたいなものから外れていきたい、みたいなところはあります。




Q:今回はそれがすごく上手くいった例じゃないでしょうか。特に海外に出る機会がある日本の人がどこかで感じる、一瞬でも日本語や日本の価値観から解放されるような感覚が『海を駆ける』にはあると思うんです。


深田:観る人それぞれの受け取り方だと思うんですけど、自分自身の意図としては、ある程度はそういう風に受け取ってもらえるだろうなとイメージはしていました。言語やナショナリティに関しても、無効化して、というか、あえて無視をして描いた方が、風通しよく受け取ってもらえるんじゃないかと。でもインドネシア語や英語がある程度できたり、インドネシアに旅行した経験がある人と、日本にいて日本語しかできない人とでは見え方も変わりますよね。またインドネシアに対する情報量とか、自然に対する考え方の違いみたいなものでも作品の見え方が変わってくる。ただ、観た人に風通しのよさみたいなものを感じてもらえたなら嬉しいですね。


Q:監督ご自身は、「国際派」みたいな看板を背負うのは重荷ですか?


深田:どう思われるかは自分ではコントロールできないので、みなさんの自由だと思ってます。ただ多少申し訳ないと思うのでは、日本人に限らず自分の映画を観ている多くの人から英語がペラペラだと思われてる節があって、そこは多少重荷ですね(笑)。


Q:じゃあフランス語は? フランスでポストプロダクション作業もした作品もありますよね。


深田:まったくムリ、まったくムリです。フランス語もよく喋れるイメージを持たれるんですよね。


Q:フランスでシュヴァリエまで受賞したのに。あ、受賞おめでとうございます!


深田:ありがとうございます。たぶんシュヴァリエでそのイメージがさらに強化されるんだろうな(笑)。バルザックの小説を映画化した『 ざくろ屋敷』(2006)という作品があるんですが、フランスのバルザック記念館で上映と講演があったんですよ。日本だとプレスリリースを流したりはしたけど、笛吹けど踊らずでまったく取り上げられなかったんですが、バルザックの聖地みたいなところで日本人の映画監督が正式に招聘されて上映と講演があるってなかなかにエポックなことなんです。そのバルザック記念館の人に言われたのは、「フランス語を喋れない人呼ぶのは初めてです」って。普通日本人が呼ばれるとしたらバルザックの研究者なんですよ。みんな仏文学者だからフランス語が喋れる前提なんだけど、初めて通訳を準備しましたって言われましたね。あれはごめんなさいって思いました(笑)。


後編に続く



深田晃司(ふかだこうじ) 映画監督

1980年、東京都出身。映画美学校監督コース修了後、2005年、平田オリザ主宰の劇団青年団の演出部に入団。2006年発表の中編『ざくろ屋敷』にてパリ第3回KINOTYO映画祭ソレイユドール新人賞を受賞。2008年『東京人間喜劇』がローマ国際映画祭、パリシネマ国際映画祭選出。大阪シネドライブ大賞受賞。2010年『歓待』にて東京国際映画祭日本映画「ある視点」部門作品賞、プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)を受賞。2013年には『ほとりの朔子』がナント三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。タリンブラックナイト国際映画祭監督賞受賞。2015年、平田オリザ原作『さようなら』が東京国際映画祭コンペティション部門選出。マドリード国際映画祭にてディアス・デ・シネ最優秀作品賞を受賞。2016年公開『淵に立つ』では、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞を受賞。初ノミネートで初受賞は、20年ぶりの快挙。2018年5月26日、最新作『海を駆ける』(ディーン・フジオカ主演)を公開。また、フランス文化省から芸術文化勲章のシュバリエ(騎士)が授与されることが発表された。2012年よりNPO法人独立映画鍋に参加している。



取材・文:村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。



『海を駆ける』

2018年5月26日(土) 全国ロードショー

© 2018 "The Man from the Sea" FILM PARTNERS

日活 東京テアトル



2018年6月16日(土)~6月29日(金)

深田晃司映画まつり2018 

シアター・イメージフォーラムにて開催

新作短編『ジェファソンの東』を含めた、深田監督作品を一挙上映!

公式サイト: http://www.fukada-cinema-party.com/

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