海外経験がもたらすルックとフットワーク
Q:予告編から感じていたのですが、とにかく画に重厚感がある。撮影の大西健之さんをスタッフィングした経緯を教えてください。
齊藤:大西さんはロサンゼルスで撮影を学び、今はフィリピンで仕事をしているカメラマンです。知り合いの逢坂芳郎監督に紹介してもらいました。今回の撮影でやりたかったことは、海外で撮影経験のある方が日本の田舎をどう捉えるか。日本で撮影しているカメラマンが撮る画は何となく想像がつくので、この映画では僕が予想出来ない画を撮って欲しかった。それで、海外で仕事もされていた逢坂監督に相談し、大西さんを紹介していただきました。
大西さんとは実際に会って話をし、その流れでカメラテストまでやりました。大西さんの撮る画はルックを含めてとても良かった。海外でやられていたせいか一味違う仕上がりで、フットワークも軽かったので、大満足でした。予算も潤沢ではないし時間も限られているから、フットワーク良く撮るのは必須。ラストの祭りのシーンは6時間半で撮りきったのですが、あれは大西さんじゃなかったら絶対無理だったと思います。
大西さんのルックに応える照明部の大堀治樹さんも、同じようにニューヨークで学びロスでの仕事経験がある方でした。大堀さんの照明もすごく良かったですね。今回は画の中に電飾がいっぱい映り込んでいるんです。日本では画の中に入ってくる照明や電飾を排除する傾向があるのですが、僕はそれがやりたかった。アメリカって照明や電飾が画面の中にバシバシ入っている。その話を二人にすると「やりましょう!むしろ僕らもそれをやりたいです」って言ってくれました。でもだんだん度が過ぎて、高良さんの頭の上から後光が差しているみたいになってました(笑)。それはさすがにやめましたけどね。ただし、それは引き算だから良いんです。足し算よりも引き算の方が現場はフレキシブルに動ける。引くことに関してはパッと判断が出来るので、それも有り難かったですね。
『罪と悪』©2023「罪と悪」製作委員会
Q:物語は『ミスティック・リバー』や『スリーパーズ』(96)、画作りや演出からは『殺人の追憶』、『ヒート』、『セブン』(95)などの影響を感じましたが、意識している部分はありますか。
齊藤:『セブン』と『殺人の追憶』は撮る前に観直しました。『ヒート』は定期的に観ていて『ミスティック・リバー』も久々に観直しましたね。『セブン』で、モーガン・フリーマンが図書館に来て「G線上のアリア」が流れるシーンがあるのですが、あれがすごく好きで、今回は同じことをやりたかった。あのシーンでは、図書館の机の上に緑のランプが並んでいて、それがすごく綺麗なんです。先ほど言った、照明を画の中に入れ込むというのは、まさにそういうことですね。
Q:本作からは重厚なエンターテイメント性を感じますが、今後撮ってみたいジャンルなどはありますか。
齊藤:ノワールやケイパー、完全犯罪モノに興味があります。それにロードムービーを掛け合わせたいですね。今回はノワールとミステリーを掛け合わせましたが、ロードムービーだけど恋愛に繋がっていったり、ロードムービーからノワールになったりと、ジャンルを混ぜることで良いバランスになるような、そんな映画を作っていきたいです。
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監督/脚本:齊藤勇起
1983年生まれ。福井県出身。日活芸術学院で映像制作を学んだ後、井筒和幸監督、武正晴監督、廣木隆一監督、入江悠監督などの作品で助監督として参加する。主な助監督しての参加作品 『ヒーローショー』(10)、『黄金を抱いて翔べ』(12)[井筒和幸監督]、『娚の一生』(14)[廣木隆一監督]、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)[岩井俊二監督]、『22年目の告白』(17)[入江悠監督]、『ホテルローヤル』(20)[武正晴監督]など。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:中野建太
『罪と悪』
2月2日(金)公開
配給:ナカチカピクチャーズ
©2023「罪と悪」製作委員会
※【お詫びと訂正】
本記事内の撮影の大西健之氏の経歴に下記の誤りがございました。
(誤):ニューヨーク
(正):ロサンゼルス
皆様にお詫びするとともに、ここに訂正いたします。