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『風よ あらしよ 劇場版』柳川強監督 自由と尊厳は勝ち取るもの【Director’s Interview Vol.385】

『風よ あらしよ 劇場版』柳川強監督 自由と尊厳は勝ち取るもの【Director’s Interview Vol.385】

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伊藤野枝を初めて知った人も



Q:本作で描いた伊藤野枝について、反響はありましたか?


柳川:関東大震災の混乱のどさくさで主義者の大杉栄が甘粕大尉によって虐殺されたことは、日本史の教科書に載っていたと思いますが、多分知っていてもその程度だと思うんです。平塚らいてうが青鞜社を作ったことも教科書には載っていましたが、詳しいことを知っている人は少なく、伊藤野枝の存在は知らない人が多かった。100年前という時代にもかかわらず、ここまで様々な事に声を上げた女性がいたことを初めて知り、驚いた人も多かったようです。


アナーキズムや社会主義を研究している人たちからは、「初めて映像で彼らを描いてくれた」と喜ばれました。また、「実際の野枝はもっと硬派な人物だ」という指摘もありました。ただ、大杉栄に関しては、永山瑛太さんでピッタリだったという意見が多かったです。実際の大杉は目が大きくて洒落者、主義主張も強くやんちゃな部分もある。再現力としては瑛太さんでバッチリでしたね。瑛太さんは真摯な方で、静岡の沓谷霊園にある大杉栄のお墓に行き、ちゃんとお参りされていました。大杉に共感して演じてくれたと思います。



『風よ あらしよ 劇場版』©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社


Q:恥ずかしながら、伊藤野枝と大杉栄がパートナーだったことは知りませんでした。


柳川:伊藤野枝や大杉栄を中心に据えて描いたのは、映画やテレビでは『風よ あらしよ』が多分初めてだと思います。吉田喜重監督の『エロス+虐殺』(70)でも2人を取り上げていますが、内容的には60年代当時の政治的空気感と、野枝の時代を映像的にコラージュするような作品だったので…。


Q:美波さん演じる神近市子は、大杉栄を刺した後は獄中で亡くなったのかと勝手に思っていましたが、調べると戦後に衆議院議員になっているのですね。


柳川:衆議院議員になって、女性の権利を主張し、売春防止法の成立に尽力しているんですよね。それぞれのキャラクターにそれぞれ強烈な人生があって、本当に面白いんです。


Q:音尾琢真さん演じる、大杉と野枝を虐殺した甘粕正彦は、『ラストエンペラー』(87)では坂本龍一さんが演じていました。満州時代の甘粕はこれまでも描かれてきましたが、この時代の甘粕を描いているのは初めて見たかもしれません。


柳川:大杉を連行するときの甘粕は目が血走っているのですが、あれは役作りで音尾さんが目を血走らせたんです。目薬を入れたのか、どうやったのか分かりませんが、役作りに賭ける執念がすごかったですね。


Q:甘粕は別に快楽殺人者ではなく、職務に忠実な普通の人間。ナチスのアイヒマンが「凡庸な悪」と形容されたことに似ていると思いますが、だからこそ描き方は難しかったのではないでしょうか。


柳川:まさにアイヒマンですよね。音尾さんはそういう部分もすごく感じながら演じてくれました。『ラストエンペラー』の甘粕は少しお洒落に描かれていますが、あそこまでヒーローじゃない。結局は中間管理職のアイヒマンですよね。




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