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『風よ あらしよ 劇場版』柳川強監督 自由と尊厳は勝ち取るもの【Director’s Interview Vol.385】

『風よ あらしよ 劇場版』柳川強監督 自由と尊厳は勝ち取るもの【Director’s Interview Vol.385】

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自由や尊厳は勝ち取るもの



Q:戦前の日本にスポットを当てた企画について、制作にあたり気を遣う点や難しさなどはありますか。


柳川:今の感覚とすごく似ている感じがするので、逆にあまり歴史劇とは捉えていません。あくまでイメージとしてですが、歴史劇として捉えると、どうしてもカメラが俯瞰になってしまう気がする。そうではなく、今を生きる僕たちが、ちゃんとカメラを平場に構えて見つめることが大切なのかなと。その時代にカメラを持ち込んで、当時の気分を僕らも共有するような感覚を持ちたいと考えています。100年前も今も根底は変わっていないと思うんです。


Q:昨年、関東大震災における朝鮮人虐殺について「記録が見当たらない」と官房長官が発言しました。大杉栄や伊藤野枝の物語は歴史修正主義の標的にされうる題材だとも考えられますが、そこに対する思いなどはありますか。


柳川:あったことを無かったことにする感覚ってすごいですよね。当時の陸軍省などの資料も残っていて、そこには虐殺したとちゃんと書いてある。文章がちゃんと残っているんです。結局僕らは馬鹿にされているんです。僕ら民衆が「それは違う」とちゃんと言わない限り、ずっとあんなことを言い続けるんでしょうね。


そういった歴史修正主義があるからこそ、僕ら作り手としては当時のリアルをちゃんと再現したい。やっぱりカメラは俯瞰じゃなくて平場にしたいし、資料を読み込んで事実を忠実に再現する事にこだわりたい。だからこそ、関東大震災の時に朝鮮人かどうかを判別するために「15円50銭」と言わせていた事実は、ちゃんとドラマで再現しました。そこは組織にも誰にも文句を言われませんでしたね。



『風よ あらしよ 劇場版』©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社


Q:本作のように映画/ドラマというエンターテインメントに社会問題を含めて提起することは、無関心層に訴えるのには非常に有効な手段ではないかと思うのですが、その辺りのご意見があれば教えてください。


柳川:日本はあまりにもやらなさすぎですよね。向こうの『バービー』(23)なんて、ちゃんと社会の問題を絡めて描いている。それをやらないと業界全体が滅びていくし、観る人も滅びていく。全体がどんどん下がっていくだけだと思います。人は社会と関わりを持って生きているわけだから、人が政治に関わるのは当然のこと。それが日本で政治に絡めた表現をすると、敬遠される世の中になってしまった。そこはちゃんと描かないと、皆の教養が無くなり、ほんの一部の人たちだけが一人勝ちする世の中になってしまう。


Q:日本人は悲惨な戦争を経て、やっと「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」を手に入れたはずなのに、それを手放そうとしていることに気づいていない気がします。


柳川:自由や尊厳、1人1人の幸せとは、求めるだけではなく勝ち取らないといけないもの。伊藤野枝という女性を描いて、それを強く感じましたね。普通に寝て起きて食べているだけでは、全然身に付かない。自分たちで何かアクションを起こさないと、学んだだけでは何も進まない。原作の村山さんも同じようなことを仰ってましたね。


Q:先ほどケン・ローチ監督の名前が出ましたが、影響を受けた映画や監督を教えてください。


柳川:やっぱりケン・ローチ監督の作品ですが、他にはイ・チャンドン監督も好きですね。あと、イーストウッドは別格かな。日本では大島渚ですね。増村保造も好きだし小津安二郎も今村昌平も…、名前を挙げろと言われたらキリがありません(笑)。


今は新自由主義が跋扈していて、映画やテレビが商業主義に転化し、そこでの物差しでしか見られなくなっている。それでも何とか折り合いをつけて、もしくは折り合いを付けずとも、自分たちの主張を刷り込む術(すべ)を身につけないと、どんどん押し潰されるばかり。今挙げた監督たちはやっぱりそこがうまいですよね。ちゃんと何かを押し込めて描く技術力や能力があり、そして気概を失わない。そこは学ぶ必要がありますね。




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監督:柳川強

1964年、大阪府出身。過去の主な演出作品に、戦争関連ドラマ『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』(07年 放送文化基金賞本賞、ギャラクシー賞優秀賞、文化庁芸術祭テレビドラマ部門優秀賞)『最後の戦犯』(08年 芸術選奨文部科学大臣新人賞) 連続テレビ小説『花子とアン』(14)特集ドラマ『永遠のニㇱパ』(19)『流行感冒』(21)土曜ドラマ『やさしい猫』(23)映画作品として『返還交渉人~いつか沖縄を取り戻す~』(18)など。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:中野建太





『風よ あらしよ 劇場版』

2月9日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開

製作・配給:太秦

©風よ あらしよ 2024 ©村山由佳/集英社


参考資料:

関東大震災の朝鮮人虐殺裏付ける政府の新文書発見 陸軍機関作成 | 毎日新聞 (mainichi.jp)

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