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『一月の声に歓びを刻め』三島有紀子監督 自主制作で分かった映画作りの原点【Director’s Interview Vol.387】

『一月の声に歓びを刻め』三島有紀子監督 自主制作で分かった映画作りの原点【Director’s Interview Vol.387】

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影響を受けた監督たち



Q:劇中ではナンニ・モレッティ監督の引用や、青山真治監督へのオマージュなどがありますが、影響を受けた映画監督や映画を教えてください。


三島:これはもう本当にいっぱいありますね。自分が大学生のときに分岐点があって、私が所属していた映画サークルの机の上に、阪本順治監督の『どついたるねん』(89)のエキストラ募集のチラシがあったんです。私はボクシング好きで赤井英和も大好きだったので、この撮影が何か映画の国に行けるきっかけになるのではという予感があった。ただ、自分で撮る自主映画のクランクインと日程が被っていたので、インの日程をずらすのかすごく悩みました。結果、自分の撮影を選んだのですが、1年後に完成した『どついたるねん』を観たときに、人生で最初に観た映画の『赤い靴』(48)と通じる凄みを感じました。死ぬ気で映画を作るとはこういうことなんだなと、映画作りの向き合い方を見せつけられました。監督として映画作りに立ち返るときは、必ず『どついたるねん』を観ています。


物語を組み立てたり人物を描いたりするときに考えるのは、神代辰巳監督です。マニアックな映画ですが、神代監督の『壇の浦夜枕合戦記』(77)というロマンポルノがあって、劇中で源氏に女性たちがレイプされるシーンがある。そこでは、レイプシーンと好き同士がセックスするシーンをモンタージュで重ねているんです。セックスという行為が人をすごく豊かにして満たされる表情を生むこともあれば、人を地獄に追いやり、ひたすら苦痛の時間となることもある。同じセックスというものが、天国にも地獄にもなるという描き方をされているんです。神代さんのその視点の持ち方には、すごく影響を受けていると思います。敬愛するフランソワ・トリュフォー監督もそこから辿っていきました。



『一月の声に歓びを刻め』©bouquet garni films


また、音の演出という意味では、青山真治監督の影響を受けています。青山組で音響をやっていた菊池信之さんに話を伺うと、青山さんは人物の心象風景みたいなものを、その場で聞こえてくる音でどうやって表現するか常に考えているとのこと。また、青山さんは何かの音をきっかけに脚本を考えられることもあるそうです。私の今回の作品でも、八丈島の章は、八丈太鼓の音や習わしから物語が生まれていきました。また、大阪の章では、犯行現場で実際に聞こえていた音をベースに心象風景の音を構築しようと、音チームの小黒健太郎さんや勝亦さくらさんが、現場の音を生かす形で組み上げてくれました。現場で鳴っていた音にどんな音を足すのかといった作業を、とても繊細にやってくださったんです。


映像的には、デイヴィッド・リーン監督の『ライアンの娘』、テオ・アンゲロプロス監督、フェデリコ・フェリーニ監督、溝口健二監督が好きですし、あとは画家のヴィルヘルム・ハンマースホイや写真家の木村伊兵衛にも影響を受けてるのかなと思います。


そして最後になりますが、お芝居を撮るときにどういうシチュエーションであれば強度があがるのかという点において、成瀬巳喜男監督作品を何度も観ているかもしれません。『女が階段を上る時』(60)で、高峰秀子さんが結婚してくれそうな男に会いに行くシーンがあるのですが、会いに行こうと思った次のカットで、立っている高峰さんの周りを子供が三輪車でぐるぐる回っている。その瞬間に、実は男は結婚していて子持ちだったことがわかる。そして、子供にぐるぐる回られている高峰さんの立ち姿だけで全ての感情が見えてしまうんです。演出でシチュエーションを考えるときには、いつも成瀬さんのことを思い出すようにしていますね。




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監督/脚本:三島有紀子

大阪市出身。18歳からインディーズ映画を撮り始め、神戸女学院大学卒業後NHKに入局し「NHK スペシャル」「ETV 特集」「トップランナー」など市井の人々を追う人間ドキュメンタリーを数多く企画・監督。03 年に劇映画を撮るために独立し、東映京都撮影所などでフリーの助監督として活動、ニューヨークでHBスタジオ講師陣のサマーワークショップを受けた後、『しあわせのパン』(12年)、『ぶどうのなみだ』(14年) と、オリジナル脚本・監督で作品を発表。撮影後、同名小説を上梓した。『幼な子われらに生まれ』(17年) では第41回モントリオール世界映画祭で審査員特別大賞、第41回山路ふみ子賞作品賞、第42回報知映画賞監督賞など、国内外で多数受賞。ほかの代表作として、『繕い裁つ人』(15年)、『少女』(16年)、『Red』(20年)、短編『よろこびのうた Ode to Joy』(21年『DIVOC-12』)、『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』(22年『MIRRORLIAR FILMS Season2』)、セミドキュメンタリー映画『東京組曲2020』など。



取材・文:香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:中野建太





『一月の声に歓びを刻め』

テアトル新宿ほか全国公開中

配給:東京テアトル

©bouquet garni films

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