今年は黒沢清監督の新作が立て続けに公開されるという幸運な年である。そのうちの一本である『蛇の道』は、監督自身の過去作をセルフリメイクするという興味深い試みとなっている。元となったのは1998年に製作された同名タイトルの『蛇の道』。哀川翔・香川照之主演によるVシネマとして作られた作品だ。それを何とフランス映画として監督自らリメイクし、哀川の役を柴咲コウが、香川の役をフランス人俳優のダミアン・ボナールが演じるという。ここまで聞いただけでも、興味を掻き立てられずにはいられない。
しかし大変恥ずかしながら、筆者は98年版の『蛇の道』は未見で、その存在すら知らなかった…。そこで、2024年版の『蛇の道』を観た上で、続けて98年版を鑑賞してみたのだが、これが非常に面白い映画体験であった。これから観る方には、この順番での鑑賞をぜひお勧めしたい。
セルフリメイクという試み自体が初めてだったという黒沢監督だが、いかにして『蛇の道』に再び挑んだのか。話を伺った。
『蛇の道』あらすじ
何者かによって娘を殺された父、アルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)。偶然出会った心療内科医の新島小夜子(柴咲コウ)の協力を得て、犯人を突き止め復讐することを生きがいに、殺意を燃やす。“誰に、なぜ、娘は殺されたのか”。とある財団の関係者たちを2人で拉致していく中で、次第に明らかになっていく真相。“必ずこの手で犯人に報いを——”その先に待っているのは、人の道か、蛇の道か。
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Vシネマで終わるのがもったいなかった
Q:『蛇の道』は、「復讐」という普遍的なテーマがセルフリメイクとしての選定理由の一つだったそうですが、作品に対しての思い入れなどもあったのでしょうか。
黒沢:当初Vシネマとして作ったオリジナルの『蛇の道』は、友人の高橋洋という男が書いた脚本で、良く出来てるなぁと当時から思っていました。Vシネマだとそうそう多くの方が観る機会もないので、もったいなかった。それで、自分の作品でリメイクするとしたら何かと言われ、深く悩みもせずにすぐに『蛇の道』と答えたんです。
『蛇の道』© 2024 CINÉFRANCE STUDIOS – KADOKAWA CORPORATION – TARANTULA
Q:今回は高橋洋さんが直接関わっていないからか、舞台がフランスになったからなのか、ホラー風味が薄れてサスペンス色が強くなった気がしました。意図されたものはありますか。
黒沢:当時のVシネマはスーパー16mmというフィルムで撮っているんです。画質も悪く、ガサガサしたフィルムの質感もあり、異様な感じがより出ていた。一方、今回はデジタルで撮っていて、クリアで陰影もある美しい映像になっている。その違いは大きいと思います。
また、オリジナルは全く分らないまま放り出すという脚本になっていました(笑)。当時撮っているときも「まぁ、Vシネだからいいか」と放り投げたのですが、それがより不気味にさせたのかもしれません。でも今回はそこまで無責任にするのはやめました。分らせるところは分からせつつ、ただ最終的にはやはり放り投げるのですが(笑)、それでも前回のような荒っぽい感じはなくなっていると思います。