現場の“グルーヴ”を捉える
Q:役者陣の演技も印象的ですが、撮影前にリハーサルは行われたのでしょうか。
大根:事前リハーサルは2箇所ぐらいやりました。一つは第1話の交渉シーン。あそこで重要なのは騙される側の司法書士だったので、その役を演じる長友君という役者のためにリハーサルをやりました。もう一つは第4話で、ハリソンと辰(リリー・フランキー)が対峙するシーンの裏で進む金額交渉の場面。石洋チームが勢揃いして、地面師たちがいて、あびるホールディングスの社長がいてというシーンですね。
芝居はわりとしつこく撮りました。地面師役の5人はプロ中のプロなので、皆セリフも芝居も完璧なんです。ただ、それを現場で「せーの」でやったときに、一人一人は完璧だけれども、ちょっとした間合いや、相手のセリフのスピードに対するリアクションなどは、現場でしか合わせられない。僕がよく言うのは“グルーヴ”で、譜面通りの演奏ではなくお互いが思い通りにやって、「相手が来るならこうしよう」というところの計算が立った上で、譜面から少しのズレというか、全体の“グルーヴ”が生まれる。それが出てくるところまでリハーサルを重ねた上で、「じゃあ撮り始めます」という感じですね。そこからさらにテイクを重ねて、さらなるグルーヴが生まれる瞬間を的確なアングルで撮る。そしてさらに(笑)、編集でグルーヴを生み出す。
Netflixシリーズ「地面師たち」©新庄耕/集英社
Q:その芝居を捉えるカメラは何台だったのでしょうか。
大根:基本は2カメですね。この作品、アングルがメチャクチャ多いですよね。素材もすごく多かったですし、どんだけの台数で撮っているんだっていう(笑)。でも基本的には2台で、ときには3台入れて撮ったくらいです。芝居が固まっても、テイクを重ねていく毎にどんどん良くなったりもするので、ルーズ目のアングルから攻めていって、次はミディアムショット、次にそれぞれのヨリ、という感じで撮っています。自分の中での「決めショット」は各シーンにあるので、ここは「決めで撮る」みたいなところもありましたね。
Q:ルックが痺れるほどにカッコよく、デジタル撮影を使いこなしているフィンチャー映画のようでした。今回の撮影は阿藤正一さんと森下茂樹さんの師弟コンビですが、撮影はどのように進められたのでしょうか。
大根:Netflixは撮影前にクオリティチェックというカメラテストをやるのですが、ハリソンルームのミニチュア版みたいな簡易セットを作って、それを撮りながら阿藤さんと照明の中村裕樹さんと一緒に方向性を決めていきました。やっぱりグローバルは意識しましたね。海外のクライムサスペンスの猿真似にならない、日本ならではの新しい方向を目指したい。スタッフにはそう話していました。仕上げ段階のカラーグレーディングでも色々と試していて、今回はカロルという日本語も喋れるポーランド人のスタッフにお願いしました。カロルはめちゃくちゃ良い奴で「こういったタイプの作品にはこうだよね」と色々提案してくれました。カロルが外国人だからグローバルな目線があるというのはちょっと短絡的かもしれませんが、それでもカロルの経験値からくるものには非常に助けられました。スタッフ全員が作品を楽しんでいて、より良くしようという意識がすごく感じられましたね。