Netflixシリーズ「地面師たち」大根仁監督　意識したのは海外ドラマの“容赦のなさ”【Director’s Interview Vol.426】

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2024.07.31香田史生

受注仕事から学んだもの

Q：石野卓球さんの音楽もハマっていましたが、こうやってお仕事されるのは初めてですか。

大根：卓球さん自身、劇伴仕事は今回が初めてです。これまでずっと付き合いもあるし、ワールドクラスのトラックメーカーですから、いつかはお願いしたいと思っていましたが、なかなか題材が難しい。ああいったエレクトロやアンビエント、テクノ的なものは、合う題材がそうそう無いんですよ。でも犯罪モノとテクノって絶対合うと思っていたので、「メロディとか綺麗な音とか全然要らないですから（笑）、とにかくダークな、ダークエレクトロでいきましょう！」と、お願いしました。

Q：テンポよく物語は進みますが、人物が対峙する“間”もしっかり取られています。編集ではどのようなことに気を付けていますか。

大根：書いているときも撮っているときも、監督としてよりも視聴者としての意識の方が高いです。特に編集するときはめちゃくちゃ客観的になりますね。だからバッサリ切るときもあります。すごい時間や労力をかけて撮影したところも、観ている側にストーリーが伝わらず自己満足になっているだけだなと思うと、バッサリ切っちゃいます。また今回は、卓球さんが早めに音楽をあげてくれたので、それに合わせて編集が出来たのも大きいですね。

Netflixシリーズ「地面師たち」©新庄耕／集英社

Q：以前、大根監督が「自身が縮小再生産に陥っている」と言っていたのが印象的でしたが、この作品で、そこからは完全脱却されたように感じました。

大根：5〜6年前くらいから縮小再生産を感じていて、自分のストックや持ちネタがどんどん無くなってきて「これで50代を乗り切るのはキツイなぁ」と感じていました。それで『SUNNY　強い気持ち・強い愛』（18）を撮ったあとに、自分が企画提案してやるようなものは一旦止めて、外からの仕事をやろうと決めたんです。まぁでも、外の仕事をやろうと決めたところで、オファーが来ないとやれないのですが、うまくそのタイミングで大河ドラマの『いだてん～東京オリムピック噺（ばなし）～』（19）の仕事が来て、その後に秋元康さんからの依頼で『共演 NG』（20）、そしてカンテレの佐野亜裕美プロデューサーからの『エルピス　－希望、あるいは災い－』（22）と、3本続けて受注仕事が続きました。それは本当に大きかったですね。他にも『しん次元！クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦～とべとべ手巻き寿司～』（23）なども作り、その間に「地面師たち」を少しずつ進めていました。各作品で得たものはすごく多くて、特に『いだてん』は大きな予算でしたし、「VFXってこうやるのか」と学ぶものが多かったです。『エルピス』の渡辺あやさんの脚本も、とても勉強になりました。

Q：今後は、自分のやりたいことを新たに企画提案していく方向で進むのでしょうか。

大根：そうするとまた縮小再生産になってしまうので（笑）。インプットとアウトプットを繰り返しながら、自分なりのバランスでやっていきたいと思いますね。

監督／脚本：大根仁

1968年生まれ、東京都出身。『アキハバラ@DEEP』（06）、『湯けむりスナイパー』（09）、『モテキ』（10）などのドラマや舞台、CM、MV を数々手掛けたのち、『モテキ』（11）で映画監督デビュー。主な作品に、『まほろ駅前番外地』（13）、『リバースエッジ大川端探偵社』（14）、『ハロー張りネズミ』（17）、大河ドラマ『いだてん～東京オリムピック噺～』（19）、『共演 NG』（20）、『エルピス‐希望、あるいは災い‐』（22）などのドラマ作品、『恋の渦』（13）、『バクマン。』（15）、『DENKI GROOVE THE MOVIE? ～石野卓球とピエール瀧～』（15）、『SCOOP！』（16）、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』（17）、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』（18）などの映画作品がある。

取材・文：香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ　魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。

撮影：青木一成