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『五香宮の猫』想田和弘監督 日常の「観察」から、いかにしてドラマはたちあがるのか【Director’s Interview Vol.444】

『五香宮の猫』想田和弘監督 日常の「観察」から、いかにしてドラマはたちあがるのか【Director’s Interview Vol.444】

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何かを「撮ろう」としてはいけない



Q:観察映画という手法が上手く機能するのは、想田監督のキャラクターもかなり重要な要素だと思えます。相手に警戒心を抱かせない人柄もあるのではないかと。


想田:何かを「撮ろう」とするとやはり警戒されますよね。だからニコニコしながらそこにいればいい。あまり何かをしようとしない。そこが難しいんですけどね。撮影するということは、何かをしようとすることなので。だけど、過度に何かをしようとすると、人間も猫もそういう「気配」を察知するんです。作用があれば反作用があるように、撮ろうとすれば撮られまいとするんです。その塩梅は本当に難しい。僕の場合はその呼吸みたいなものが自然にできているところもあるのかな…。分からないけど、拒否されたことはあまりないですね。


Q:まるで武道家ですね。内田樹さんの武道論を聞いている感覚になってきました。


想田:(笑)でもそれはあるかもしれない。撮影って本当に身体的なことですから。現場で自分がドタバタしていたらドタバタしたことしか撮れないし、そこでゆったりとした気持ちで「別に何も撮れなくていいや」と待っていると、勝手に何かが起きたりするんです。


Q:ドキュメンタリー撮影は止め時が難しいと言われますが、想田さんは撮影の終わりをどうやって見極めていますか?


想田:やはりどこかで、「十分見た気がする」という感覚が芽生えるんですよ。「まだ何か撮り足りない気がする」という感覚があるうちは、撮り続けます。



『五香宮の猫』© 2024 Laboratory X, Inc.


Q:私は現場で常に「大丈夫かな、十分に撮れているかな」という不安や焦りと戦う感じです。


想田:締め切りがあるというのが原因じゃないですか。テレビはオンエアの日が決まっているから、それまでに納品しなくてはいけない。放送局もオンエアに穴を空けられないから製品管理として台本を書いて逆算をさせることになる。不安や焦りは、それが一番の大元なんだと思います。僕は焦りません。なぜかというと締め切りがないから。だから撮っていて、その人が面白いことを言わなかったり、何もしなかったとしても別にいいんです(笑)。それで別にいいやと思っていると、何か面白いことを言ったり始めたりするから不思議です。


Q:テレビも時代的に配信にシフトしつつあるので、今後はタイムテーブルに縛られない番組制作をしても良いと思えます。


想田:そう思いますよ。だって自然のお通じというのがあるじゃないですか。人工的に設定した締め切りが全てを支配するのは、物作りにとってはいい面もあるかもしれないけど、かなり弊害が大きいと思います。



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監督/製作/撮影/編集:想田和弘

映画作家。1970年栃木県足利市生まれ。東京大学文学部宗教学・宗教史学科卒。スクール・オブ・ビジュアルアーツ映画学科卒。事前のリサーチや台本、ナレーションやBGMを排した「観察映画」の方法とスタイルで、これまでに11本の長編ドキュメンタリー映画を発表。2008年に『選挙』が米国のピーボディ賞を、『精神』が釜山国際映画祭とドバイ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』が香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を、『精神0』がベルリン国際映画祭でエキュメニカル審査員賞、ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞するなど、国際的に高い評価を受けている。フランス、ポーランド、韓国、イタリア、ベルギー、カナダ、中国、香港、台湾など、世界各地でレトロスペクティブ特集上映が組まれている。これまでに『観察する男』(ミシマ社)、『The Big House アメリカを撮る』(岩波書店)、『なぜ僕は瞑想するのか』(ホーム社/集英社)など9冊の単著を出版。そのうちの『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)は英語、中国語、韓国語に訳されている。2021年、27年間住んだニューヨークを離れ、妻・柏木規与子とともに牛窓に移住。最新刊、フォトエッセイ集『猫様』(発行:ホーム社/発売:集英社)が10月18日刊行予定。



取材・文:稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)




『五香宮の猫』

10月19日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

配給:東風

© 2024 Laboratory X, Inc.

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