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Apple TV+「ディスクレーマー 夏の沈黙」アルフォンソ・キュアロン監督 映画作りと同じやり方で初のドラマに挑んだ【Director’s Interview Vol.450】

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Apple TV+「ディスクレーマー 夏の沈黙」アルフォンソ・キュアロン監督 映画作りと同じやり方で初のドラマに挑んだ【Director’s Interview Vol.450】

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撮影監督2人に別々の視点を任せる



Q:一方でスティーブン(キャサリンの過去に関わった青年の父親)役のケヴィン・クラインも、その実力を改めて証明するような名演技をみせています。


キュアロン:ケヴィンを起用できたことは本当に幸運でした。キャサリンが疑わしい言動もとるため、作品を観る側としてはスティーブンがたどる運命に感情移入することが重要になってくるからです。ある時、夕食から帰って来たタイミングでケイトから電話がありました。そこで話したのが、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』(89)でのケヴィンの演技の素晴らしさ。どんな役を演じても彼には温かさとユーモアが備わっており、それがスティーブンにふさわしいと信じ、役をオファーしたわけです。


Q:「ディスクレーマー」の特徴は、メインのナレーターがいながら、キャサリンやスティーブンのモノローグも使われている点です。つまり複数の声によるナレーションですが、これは珍しいアプローチですね。


キュアロン:私は長い間、ナレーションやボイスオーバーの使い方を探求してきました。過去の作品で必要を感じればナレーションを使いましたが、どこか疑問や不信感があったのも事実です。本来は脚本や俳優の演技ですべてを伝えるべきなのに、それができないからナレーションで補うのは、なんだか自分の非力を認めているようで……。でも今回は、それぞれの人物が抱える“秘密”が重要な要素です。実際に発するセリフでは明かせないその秘密を、ナレーションで補完しようとしたわけです。一人称、二人称、三人称と、さまざまな形式でのボイスオーバーを試み、それが観る側にどのような影響を与えるか検証しようとしました。



「ディスクレーマー 夏の沈黙」画像提供 Apple TV+


Q:さらに今回の新たな試みが、ひとつの作品における2人の撮影監督です。『大いなる遺産』(98)から『セロ・グラビティ』まで何度も組んだエマニュエル・ルベツキと、今回初めての仕事となるブリュノ・デルボネル(『アメリ』01など)を併用した理由を教えてください。


キュアロン:答えはシンプルです。チボ(ルベツキの愛称)の思いつきです。脚本を書き始める前に彼と話したところ、ナレーションが変わるごとに異なる撮影監督を使ったら、面白いチャレンジになると提案されました。ただナレーションの分だけ撮影監督を雇うのは多すぎると思い、とりあえず2人に決めるとチボはブリュノを推薦したのです。ブリュノは私もいつか仕事をしたい撮影監督でしたから、すんなり話は進みました。役割分担はキャサリンを中心としたパートがチボで、スティーブン側がブリュノ。たとえばスティーブンがキャサリンの夫のロバートと会うシーンはブリュノ……という分け方です。難しかったのは両者にとっての“同じ日”を、まったく別の日に撮影すること。しかもそのインターバルが何ヶ月も開くことがあり、天候の状態や光の加減などをできるだけ一致させるのが、本作でも最も苦労したところです。現実的に不可能だったケースもあり、照明など予想外の困難が待っていました。


Q:たしかに作品を観ると、キャサリンのパートとスティーブンのパートでは映像の質感、撮り方が異なっているように感じられます。


キュアロン:メインの人物が変わることで、“映像的言語”も変化するわけです。たとえばスティーブンのパートでは、カメラも彼の視線になることが多く、クローズアップもかなり使われます。目の前にサンドイッチが置かれたら、それをスティーブンの気持ちで見つめる。つまり“一人称”的な映像になります。キャサリンは、どちらかというとカメラは距離感もとって客観的な視点が多くなります。私たちは彼女を観察している感覚で、これは“二人称”的ですね。この違いを出すうえで、2人の撮影監督を使うことは正解でした。コントラストが鮮やかになったと感じます。さらに複数の人物を別の視点からとらえる“三人称”のパートもあります。そこは手持ちカメラでズームなども使いました。こうした映像的言語の使い分けで、私は物語を語ろうとしたのです。





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