ロケーションが及ぼすもの
Q:本作では「絵画」自体も重要な登場人物です。脚本では文字で書かれているものをビジュアル化するわけですが、どのようにして絵を作られたのでしょうか。
若松:映画に出てくる絵は高田啓介さんという方にお願いしました。高田さんは岩手在住で農家と画家を両方やっていて、日本海から下北半島、三陸を渡り歩き、荒々しい画ばかりを描かれている。まさに津山と同じシチュエーションなんです。この人だと思いましたね。
また、絵の話で言うと倉本さんは刺青が大好きなんです。この映画でも女性の刺青のエピソードが出てきますが、「刺青って見ている方はあまり気持ちのいいものではないのでは」と聞くと、「女性の肌に痛みを伴って美しい牡丹を描く、これが美なんだよ」と。
Q:若松監督が手掛ける映画は大作のイメージがあるためか、その舞台となるロケーションも印象的です。今回も東京の美術館から小樽までスケール感のある場所が登場しますが、ロケーション選びにこだわりはありますか。
若松:大臣が来る美術館ですからね。ちゃんと上野の美術館で撮りました。中では絵を掛けることができなかったので違う場所で撮りましたが、表はちゃんとした美術館で撮っています。
『海の沈黙』©2024 映画「海の沈黙」INUP CO.,LTD
脚本に書かれている内容をちゃんと表現できるのかどうか、表現できなければ止める必要も出てきます。例えば、津山が廃校で描いている画は大きな100号のサイズを想定していて、実際に東京でサイズを確認して大きさも大丈夫だと思っていたら、津山がアトリエにしている廃校の体育館に入れると100号が小さく見えるわけです。それで無理を言って130号に変更してもらいました。するとすごくいいサイズで収まった。そうやって場所選びはいろんなことに影響してきますから、とても重要ですね。
Q:小樽の海などもスケール感を感じました。
若松:今回はシネスコで撮っていますが、それがノスタルジーを感じるんです。小樽という町は横の広がりが生きる場所でした。海や岩礁、埠頭など、何だかシネマサイズな画角が落ち着くんですよね。70年代の映画はシネスコが多かったですから、それもノスタルジーを感じる理由の一つですね。