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『海の沈黙』若松節朗監督 これは倉本聰のための映画です【Director’s Interview Vol.452】

『海の沈黙』若松節朗監督 これは倉本聰のための映画です【Director’s Interview Vol.452】

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倉本聰が長年構想し、「どうしても書いておきたかった」と語る渾身の物語がついに映画化。人々の前から姿を消した天才画家の葛藤の人生が描かれる。孤高の画家・津山竜次を本木雅弘が演じるほか、小泉今日子、中井貴一、石坂浩二、仲村トオル、清水美砂ら贅沢なキャストが集まった。監督を手がけたのは、『ホワイトアウト』(00)、『沈まぬ太陽』(09)、『Fukushima 50』(20)の若松節朗。日本では最近少なくなった“大人の映画”に仕上がっている。若松監督はいかにして倉本脚本を映画化したのか。話を伺った。



『海の沈黙』あらすじ

世界的な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で大事件が起きた。展示作品のひとつが贋作だとわかったのだ。連日、報道が加熱する中、北海道で全身に刺青の入った女の死体が発見される。このふたつの事件の間に浮かび上がった男。それは、かつて新進気鋭の天才画家と呼ばれるも、ある事件を機に人々の前から姿を消した津山竜次(本木雅弘)だった。かつての竜次の恋人で、現在は田村の妻・安奈(小泉今日子)は北海道へ向かう。もう会うことはないと思っていた竜次と安奈は小樽で再会を果たす。しかし、病は竜次の身体を蝕んでいた。残り少ない時間の中で彼は何を描くのか?何を思うのか?彼が秘めていた想いとは?


Index


倉本聰との仕事



Q:本作は倉本聰さんが長年温めていた企画ですが、どのような経緯で若松監督が映画化を手がけることになったのでしょうか。


若松:倉本さんとは、以前「祇園囃子」(05 TV)という渡哲也さん主演のドラマでご一緒しました。今回はそれ以来です。プロデューサーからお声がけいただき脚本も読ませてもらったのですが、僕にはちょっと荷が重いなと…。一度お断りしたのですが、倉本さんから「どこが分からないのか? どこを直せばいいのか? 一度話したいから富良野に来てくれ」と連絡が来た。それで雪の中をプロデューサーと二人で富良野に行きました。


実際にお会いすると、倉本さんはサングラスをかけて僕の顔をずっと見ているんです。「脚本は一字一句変えてはならない」といった噂は聞いていたので、かなり厳しい人なのだろうと思っていました。ただ僕が監督をやるのであれば、自分の意見はちゃんと言わせてもらおうと。それでセッションのような形になったのですが、ちゃんと話を聞いてくれる。噂に聞く厳しい倉本聰ではなく僕には優しかったですね。


倉本さんがやりたかったことは“美とは何か”を訴える哲学的なものでした。それは理解できるのですが、それだけだとエンタメとして成立しない。本木さんと小泉さんが出演されることも決まっていましたし、だったらラブストーリーの要素を強くした方が良いのではないか。それを倉本さんに伝えると「だったら書くよ」と言ってくれました。



『海の沈黙』©2024 映画「海の沈黙」INUP CO.,LTD


Q:「脚本は一字一句変えてはならない」という噂は、今回の現場ではいかがでしたか。


若松:倉本さんの脚本には、セリフのあいだに“間”と書いてある箇所がたくさんあります。それは「ここでは“間”を取ってくれ」という指示で、「このセリフが何を意図しているのか、それを“間”で表現しているのだ」と。ただ、映画は時間の制約があるので、“間”を切らなければならないときもある。だから今回は“間”を無視しようと決めました。もちろん全てを無視するわけではありませんが、畳み掛けるように言う場合もあるし、“間”をゆっくり取った芝居を見せることもある。そこはもう居直ろうと。


Q:“間”を詰めるということは撮影だけではなく編集にも関わってきますね。


若松:その通りですね。だから編集も勝手にやらせてもらいました。倉本さんからすると不満もあるでしょうが、今回は自分のためではなく倉本さんのための映画を作ったんです。その自負はありますね。これはあなたが言いたいことを伝えるための映画ですよと。


Q:以前にご一緒されたドラマで倉本さんからの信頼を得ていたのでしょうか。


若松:信頼については僕が言うことではありませんが(笑)、「祇園囃子」で流れる音楽に「カノン」をかけたいと相談したら、倉本さんから「これは素晴らしいね!」と言ってもらえたことがありました。そういう音楽的なことや映像センスを見ていてくれたのかもしれません。また、僕は「人間を撮る」ということをテーマにしていて、人間に接写することを生業としていますから、そこもあるかもしれません。


Q:「人間を撮る」というテーマは若い時から一貫して持っているのでしょうか。それともどこかの段階で気づかれたのでしょうか。


若松:もう自分の特性でしょうね。例えばドラマの「救命病棟24時(第3シリーズ)」(05 TV)とかだと、手術をしている手元ではなく、手術をしている人間の顔ばかり撮ってしまうんです。するとプロデューサーから「どうして手元を撮ってくれないんですか?」と言われる。そんなときは「興味がないからだよ」と答えていました。「人間の顔を見れば言いたいことは伝わるんじゃないの?」ってね。もちろんそんなことは通用しないので結局手元は撮るのですが(笑)。それでも気がつけばいつも人の顔を撮っていますね。表情でその人の動きが説明できればいいなと。




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