倉本聰のための映画
Q:往年の日本映画のように、テーマも役者も大人がしっかりと楽しめる映画に仕上がっていましたが、映画監督として手応えはいかがでしたか。
若松:そもそも自分のことを映画監督と言っていいのかどうか分かりませんが、テレビでキャリアを重ねて映画界に入ってきて、映画の醍醐味や怖さは十分知りました。映画って暗い劇場の中にみんなを放り込んで、真剣に集中して観てもらうわけですから、下手なものは作れないですよね。そしてなんと言ってもお客さんが入らないとダメ。テレビとはそこが違うなと。最近はWOWOWみたいに途中でCMが入らないものもある。それだと映画と同じような撮り方が出来るし、スタッフも映画の人たちが多い。そういう意味では映画の監督をやっているという意識はあるかもしれません。
先にも言いましたが、今回は僕の映画ではなくあくまでも倉本聰の映画を作ろうと思ったんです。それに応えられたかどうかはまだわかりません。倉本さんとは「お疲れ様でした」の握手はしましたが、「よかったよ」というメッセージはまだ受け取っていないので、今は非常に心配です(笑)。ただ、仰ってくださったように“大人の映画”になっていたのであれば、倉本さんの言いたいことは伝えることができたのかなと。
『海の沈黙』©2024 映画「海の沈黙」INUP CO.,LTD
Q:日本映画でもまだこういったジャンルを観ることができる安心感や嬉しさがありました。
若松:それはすごく嬉しいですね。日本でもこういう映画を作れるんだというのは、『Fukushima 50』や『沈まぬ太陽』、『柘榴坂の仇討』(14)を撮ったときも常に思っていました。今回もこういった大人の映画が撮ることができたのは、やっぱり倉本さんの世界観によるところが大きいですね。これが倉本さんじゃなかったら、またちょっと違っていたと思います。
Q:影響を受けた好きな監督、映画を教えてください。
若松:一番影響を受けたのはデヴィッド・リーンの『アラビアのロレンス』(62)です。他にはバーブラ・ストライサンド主演の『追憶』(73)、『プラトーン』(86)などかな。初めて観た洋画が『アラビアのロレンス』だったのですが、あの大迫力にちょっとまいりました。ああいう映画を撮りたいですね。もしお金を出してくれる人がいるならば、西木正明さんが書いた「ウェルカム トゥ パールハーバー」(角川文庫)を映画化したいです。当時の日本人スパイの話なのですがこれがめちゃくちゃ面白い。相当なお金が掛かるだろうから難しいとは思いますが、リタイヤするまでに撮れると最高ですね。
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監督:若松節朗
1949年秋田市生まれ。主なテレビドラマ演出作品に「振り返れば奴がいる」(CX/93)、「お金がない!」(CX/94)、「やまとなでしこ」(CX/00)、「弟」(EX/04)、倉本聰作「祇園囃子」(EX/05)、「石つぶて 〜外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち〜」(WOWOW/17)、NHK BSプレミアム「ガラパゴス」(23)など。 映画監督作品に、日本アカデミー賞優秀監督賞『ホワイトアウト』(00)、『沈まぬ太陽』(09)、『夜明けの街で』(11)、『柘榴坂の仇討』(14)、『空母いぶき』(19)、日本アカデミー賞最優秀監督賞『Fukushima 50』(20)。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『海の沈黙』
11月22日(金)公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024 映画「海の沈黙」INUP CO.,LTD