「時間の経過」を重視し、撮影を夏・冬の2部制で実施
Q:撮影を夏編と冬編の2部制に分けるのが条件の一つだったと伺いましたが、撮影期間が空いたタイミングで脚本をブラッシュアップすることも狙いの一つだったのでしょうか。
藤井:今回、僕たちが重視していたことの一つに「時の流れを感じさせる」がありました。夏に撮った素材を粗編集して見返し、冬編に増えたシーンもありますし、体型や髪形の変化を出すためにはどうしても時間が必要で、その猶予を俳優部に与えることもこのプロジェクトにおいては必要だと思ったのです。スタッフとプロダクションは大変だったかと思いますが、お陰様で実現できました。
Q:実際の季節に合わせた撮影は、『余命10年』(22)や『青春18×2 君へと続く道』など、藤井監督の方法論の一つでもありますね。
藤井:原作へのリスペクトもあります。『正体』でいうと、暑くてモクモクした工事現場と、雪はどうやっても同居しないため、夏と冬に撮影を分ける必要もありました。元々はロッジのエピソードを入れ込む予定で「夏と冬はマスト」と伝えていて、ロッジがケアホームにスライドした形です。
『正体』(C)2024 映画「正体」製作委員会
Q:藤井監督は川上さんとの別媒体の対談インタビューで「今まで映画に映ってないようなところでなるべくロケしたい」という話をされていました。今回のロケ地探しは相当大変だったのではないでしょうか。
藤井:大変でしたね。インバウンドでホテルがどこも高騰化していて、かつなかなか押さえられない問題もあり。東京でプロダクションを行うとどうしても行ったことのあるロケ地が増えてしまうので、各地のフィルムコミッションの方々にたくさん尽力いただきました。市役所の方のご自宅で撮影させていただいたりもしたのですが、自主映画じゃないので「ロケハンだけでこんなにスタッフがくるの?」と驚かれてしまって。本番ともなればこの5倍は来る、となって1回断られてしまったところを交渉して……というようなこともありました。