上田流、キャラクターの作り方
Q:上田作品は個性豊かなキャラクターも魅力ですが、脚本からキャスティング、役者自身が生み出すものまで、キャラクター作りについて教えてください。
上田:たぶん僕は、邦画にしてはキャラクターの味付けが濃い方だと思うんです。漫画やアニメは味付けが濃いけれど邦画はリアリティに寄せているものが多い。自分がこれまで摂取してきたものは、映画に加えて漫画やアニメも多いので、由来している成分から自然とそうなってしまう。そんなこともあって、どういう味なのかわからないとセリフが書けないというのがそもそもあるんです。だから淡白なキャラクターはあんまり書けないかもしれません。
加えて意識しているのは、“弱点が何か”ということ。弱点は人間の愛おしさでもあると思うし、翻って困難を乗り越える武器になるようなことが大好き。だから行き過ぎているキャラクターが多くなってしまう。たとえば森川葵さんが演じた元役者の美来は、人として付き合っていくには難しいくらいの役者バカ。そういうところから特技や弱点を考えたりしています。
あとは衣装ですね。川栄李奈さん演じる望月さくらはいつもスーツなのですが、スニーカーを履いているんです。衣装合わせでスニーカーを履いてもらったときにすごくしっくりきた。スーツなんだけど、いつでも走れるぞというキャラクターなんだなと。衣装から分かってくることもあるんです。
『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』©2024アングリースクワッド製作委員会
Q:内野聖陽さんとは撮影前にミーティングを重ねられたそうですが、具体的にどのようなことを話されたのでしょうか。
上田:基本的に脚本内容の打合せですね。まるでタイマンのような脚本打合せを5〜6回やりました。内野さんはそのときの最新稿を常に持って来られて、毎回付箋がびっしり付いている。それで「頭から行こうか!」と、その付箋を一つずつ外していくんです(笑)。
Q:ご自身が演じる熊沢のことだけではなく、脚本全体に関しても質問があったのでしょうか。
上田:ありましたね。「熊沢のキャラクターとしての筋が通っているか」という質問が一番多かったのですが、そこからもう一つ俯瞰して、熊沢が出てない場面についても、こうした方が面白いんじゃないかと言ってくれました。
これまでの自分の映画で、無名の俳優たちとリハーサルを重ねて作ってきたというスタイルが、今回のスターキャスティングで叶えられるかどうか懸念がありました。ただ、最初に内野さんにお会いしたときに、「撮影前からガッツリと肩を組んで一緒にやれるのであればやりたい」と内野さんから言ってくださった。そこはすごく有り難かったですね。
Q:無名の役者さんとスターの役者さんとで、違いを感じた点はありましたか。
上田:やはり経験値が全然違いましたね。今までは芝居経験が浅い人たちも多くて、いい意味で本人にキャパオーバーをさせて、本人の素の部分やそこでしか生まれないライブ感みたいなものを引き出したりもしていましたが、今回は歴戦の猛者たちなのでキャパオーバーはないんです(笑)。むしろ現場でこっちのプランを超えてくるアイデアをどんどん放り込んでくる。その新しいアイデアを採用すると、必然的にこちらの変更も必要になってくる。それを限られた時間の中で対応して撮っていくという、こちらのタフさが求められました。
Q:以前の取材で、潜水艦モノを撮りたいとお話しされていましたが、今後やりたいジャンルがあれば教えてください。
上田:潜水艦モノにハズレなしですからね。ぜひ撮りたいですね。また、最後まで成立するかはまだ分かりませんが、今作っている作品もいくつかあって、一つはリアリティーSFで、もう一つは若い人を中心とした物語。これまでは30〜50代が主人公のものが多かったので、次は10〜20代の若者たちと一緒に映画を作りたいですね。
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監督/脚本:上田慎一郎
1984年4月7日生まれ、滋賀県出身。09年に映画製作団体を結成。『お米とおっぱい。』『恋する小説家』『テイク8』など10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。18年に初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ上映拡大する異例の大ヒットを記録。19年に『イソップの思うツボ』(共同監督作)と『スペシャルアクターズ』が公開。20年5月にコロナ禍を受け、監督・スタッフ・キャストが対面せず“完全リモート”で制作された作品『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeにて無料公開。その後、『100日間生きたワニ』(21)、『DIVOC-12』(21)、『ポプラン』(22)が公開。23年「#TikTokShortFilm コンペティション」にて、短編『レンタル部下』がグランプリを受賞した。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
全国公開中
配給:NAKACHIKA PICTURES / JR西日本コミュニケーションズ
©2024アングリースクワッド製作委員会